5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか? 2019年秋の刊行に先駆けてウェブ上で全面公開します。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

1「エデンの東」へと旅立った人類

2019年7月18日

ジェームス・ディーンが主演した『エデンの東』という古い映画があります。

エデンの東はノドと呼ばれ、エデンの園を追放されたアダムとイヴの息子カインがたどり着いた土地として知られます。

それがなぜ映画のタイトルになったのでしょう?

ノドには流浪者とか、逃亡者という意味がありますが、旧約聖書の「創世記」には、カインが弟のアベルを殺したと書かれてあります。だとすれば、流刑地のようなニュアンスだったかもしれません。

カインは、いわば人類最初の殺人者。しかも、神に「アベルはどこにいるのか?」と尋ねられた時、「知らない」と嘘もついています。

「カインは弟アベルに言った。『さあ野原へ行こう』。
彼らが野にいたとき、カインは弟アベルに立ちかかって、これを殺した。
主はカインに言われた、『弟アベルは、どこにいますか』。
カインは答えた、『知りません。わたしが弟の番人でしょうか』。」(

この言葉を聞いた神は、「今あなたはのろわれてこの土地を離れなければなりません」と告げます。

いわく、「あなたが土地を耕しても、土地は、もはやあなたのために実を結びません。あなたは地上の放浪者となるでしょう」(同)。人類の祖先であるカインが、殺人と嘘の代償で流刑地であるノドに移り住む……聖書では、これが人類の旅の始まりとして描かれます。

このエピソードをモチーフにした映画『エデンの東』では、父をめぐる兄と弟の確執が描かれています。

ジェームス・ディーン演じる主人公は、品行方正な弟を何かにつけてかわいがる父が気に入らず、つねに反抗します。

そして、新しい事業を始めようと父のもとから離れます。

反抗はじつは愛に飢えている証しでもあるわけですが、父は彼をなかなか認めようとしません。最終的にふたりには和解という顛末が待っていますが、ここで見えてくるのは旅の意味です。

父を神に置き換えてもいいし、置き換えなくてもいい。反抗した息子が旅をし、そして帰ってくる。また旅に出ることもあるかもしれませんが、でも、またいつか帰ろうと思うでしょう。

カインの末裔である人類も長い旅を続けていますが、もとあった場所に帰り着くことができたでしょうか?

人類の「出アフリカ」の旅を駆け足でたどってみましょう。

アフリカで生まれたとされる人類は、一気にグレートジャーニーを開始し、世界に散らばっていったわけではありません。

数百万年という長い歳月のなかで断続的に活動範囲を広げていき、そのなかでじわじわと進化してきたようです。

この間、20種ほどの人類が現れ、そして滅び、その唯一の生き残りであるホモ・サピエンスは、6万年ほど前にグレートジャーニーを始めた新参者の人類であったと考えられています。

初期の人類の一つに数えられるアウストラロピテクスが現れたのは400万年ほど前とされますから、同じ人類でも年代にずいぶん開きがあります。いや、年代のみならず、見た目もかなり違います。

アウストラロピテクスは、猿人と呼ばれることもあるように、こじんまりして、外見はほとんどサルと変わりません。

これに対し、20〜30万年前、おなじアフリカに現れたホモ・サピエンスは、脳の大きさも、骨格も、顔つきも、子孫であるいまの人類とほとんど変わりないくらいに変化していました。

彼らはほかの人類がそうしてきたように、やがて故郷を飛び出し、世界へと拡散し、少しずつ子孫を増やしていきました。ただ、その足どりは残されたわずかな骨だけではわかりません。

教えてくれたのは細胞内の小さな器官です。

ヒトの体を構成する細胞の一つ一つには、ミトコンドリアという活動エネルギーを生み出す工場があります。

エネルギーを製造する重要な器官でありながら、もとは細胞に寄生した細菌の一種だったとされ、その証拠にシンプルながらDNAを持っています。

DNAというと、通常、核のなかの遺伝情報が思い浮かびますが、細胞内にはミトコンドリアのような変わった生き物が棲みついていて、増殖を繰り返しながら生命活動を支えています。

体内の部外者が生命活動を支配する……生き物は個であって個ではない、不思議な構造で成り立っているのです。

人類の系統樹


河合信和『ヒトの進化 七〇〇万年史』(ちくま書房)をもとに作成(クリックで拡大)

(つづく)

注 「創世記」章4(日本聖書協会訳『口語訳聖書』所収)
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プロフィール

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長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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