5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか? 2019年秋の刊行に先駆けてウェブ上で全面公開します。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

2ミトコンドリアが教えてくれたこと

2019年7月22日

食べるということは、このミトコンドリアまで食べ物の栄養や酸素を運び、エネルギーに切り替えることを意味します。

食べ物を咀嚼して、バラバラに分解して腸から取り込み、細胞内でもさらに細分化し……最終地点のミトコンドリアで電子や水素が取り出されます。そうやって活動エネルギーのもとになるATPという物質が作られますが、その要求する量はあまりに膨大です。

無数の細胞によって成り立っている動物は、自らの身体を維持するためたえず食べ続けなくてはなりません。しかも動物の場合、食べるために動きまわる必要があります。歩くことはエサを探し、補給するための手段であり、おそらくそれが旅の起源だったでしょう。

ホモ・サピエンスもまた、まるでミトコンドリアに命じられるかのように食を求めて大地をさまよい、そのなかで飢えずに子孫を残せたグループが生き残り、遺伝情報をいまに伝えています。

食べ続ける仕組みのなかで世界と触れ合い、刺激され、結果としてここまで進化したと言ってもいいかもしれません。

不思議な因果のように映るかもしれませんが、こうした旅の足どりを教えてくれたのも、じつはミトコンドリアでした。

ミトコンドリアのDNAは、核のDNAと同様、代を重ねるごとに変異していくため、その塩基配列の微妙な差異を解析していくと、過去から現在へと連なる人類のルーツが浮かび上がります。

遺伝子の構造がシンプルであるため解析しやすく、古くから人類のルーツ探しに活用されてきましたが、ミトコンドリアDNAには核のDNAとは大きく異なる特徴がありました。

精子と卵子が受精すると、核のDNAでは、それぞれの遺伝情報が半分ずつ伝わっていきますが、ミトコンドリアの場合、受精卵には卵子のミトコンドリアDNAしか残りません。

精子のミトコンドリアDNAは受精した段階で排除され、母方の系統だけが代々伝わっていくのです()。

理由はよくわかりませんが、メスありきで成り立っている生物の法則が、ここでも適応されているのかもしれません。この母性遺伝の仕組みを応用して、人類の母方のルーツ探しが始まりました。

ミトコンドリアDNAの系譜をさかのぼっていくと、ついにはアフリカにたどり着きます。いまの人類の直接の祖先は、遠い昔、アフリカで暮らしていた女性のなかにいたのです。

ミトコンドリアDNAの解析によって、人類のルーツがアフリカであることが確実視されるようになりました。

ミトコンドリアが生物を変えた


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(つづく)

注 米川博通『生と死を握るミトコンドリアの秘密』(技術評論社)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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