5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第2章から日本列島に舞台を移し、まず「縄文」に注目します。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

1世界有数の豪雪が生んだ「縄文の森」

2019年8月19日

日本列島は、地勢学的に面白い事実がいくつかあります。

ひとつは温帯に属していながら、日本海側の一帯に関しては、世界でも有数の豪雪地帯として知られているという点。

雪深い土地は地球上に数多くありますが、日本海側の豪雪地帯には2500万もの人々がぎっしりと暮らしています。雪が降るのは冬の間だけですが、それにしてもすごい密度です。

そもそも、なぜこんなに雪が降るのでしょう? 豪雪を生み出すメカニズムには、まず気圧の動きが関係してきます。

天気予報などで「西高東低の冬型の気圧配置」といった言葉を耳にすることがあるでしょう。

それは「西(大陸側)に高気圧、東(太平洋側)に低気圧が活動している状態」をいいますが、高気圧といっても、ここではシベリア寒気団を指し、猛烈な寒気を伴っています。

大気は気圧の高いほうから低いほうへと流れるため、冬になるとこの寒気団が日本列島に襲いかかってきます。

シベリア寒気団が東へ向かう途中には日本海が広がり、対馬暖流が流れています。暖流であるため水温は暖かく、大量の水蒸気が寒気団に吸収され、やがて雪雲になります。この雪雲が日本海側の山脈にぶつかることで、世界でも有数と言われる豪雪に見舞われるのです。

こうしたプロセスで「温帯でありながら、大雪も降る」という、日本列島特有の気候風土がつくられていきました。

しかも、積もった雪は春になると融けはじめ、川になって大地を循環するようになります。そうなれば、草木の生長はうながされ、樹々が育つことで、いつしか山は森で覆われます。

雪は清水を生み、やがて森へと化けるのです。

環境考古学者の安田喜憲さんが、森に恵まれた日本列島の風土について興味深い指摘をしています。

安田さんがまず注目したのが、石器の大きさです。西アジアやヨーロッパの旧石器時代の石器と、日本の東北地方の遺跡で見つかった同時代の石器を比べると、前者が圧倒的に大きいといいます。

なぜ、大きさが違うのか? 安田さんは、福井県三方湖の湖底の堆積物をボーリングで採取し、どの層にどんな種類の花粉がどれだけ含まれているかを調べ、植生の変遷を探りました。

その結果、過去15万年にわたって「森の様子は何回も変化するが、全体の中で樹木の出現率は五〇パーセントの高い数値を示している」。つまり、「周辺には森の多い風景がずっと存在した」(注1)。

まだ縄文時代の始まる以前、日本列島にはすでに森が広がっていたのです。

一方、同様の花粉分析によって、同時代の西アジアやヨーロッパには広大な草原が展開されていることが判明します。

安田さんは、両者を比較することで 「巨大なシリアの石器と小さな日本の石器の違いを生み出したのは、旧石器時代の人々が生活した生態系の違いではないか」と考察します。

「巨大な石器は草原に生息するゾウやサイ、ウマやバイソンなどの大型の哺乳動物を狩りするために作られたのであろう。これに対し、日本の小さな石器は、森の中のイノシシやシカなどの小型の哺乳動物の狩りのためのものだったと言えるのではないだろうか」(同)

おそらく、この森の住人が縄文人の祖先だったのでしょう。

日本列島が大陸から切り離され、日本海に対馬暖流が流れはじめたのは1万3000年前頃とされています。

最終氷期が終わりを告げ、地球が温暖化に向かう時期と重なり合いますが、こうした環境の激変期に、東日本を中心に森の植生が雪に強いブナなどの落葉広葉樹へと変わっていきます。

西アジアの草原も温暖化によって森に変化しますが、その後、ヤンガードリアス(寒の戻り)によって地球が再び寒冷化に見舞われます。

この寒冷化で森の暮らしがままなくなり、農耕・牧畜が始まったことは前述した通りですが、「太平洋岸のヤンガードリアスの証拠は、大西洋岸ほど顕著には見られない」(同)。つまり、日本列島ではヤンガードリアスの影響をあまり受けなかったようです。

森の生活がそのまま継続され、農耕や牧畜に頼らない、狩猟・採集を主体にした時代が続いていくのです。

日本列島の風土の成立


(つづく)

注1 安田喜憲『縄文文明の環境』(吉川弘文館)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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