5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第2章から日本列島に舞台を移し、まず「縄文」に注目します。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

2「肉食」から「植物食」へ回帰した縄文人

2019年8月22日

日本列島に住み着いた人々が縄目模様の土器を作りはじめたのは、1万5000 〜6000年ほど前のことだったとされています。

まだブナの森が広がっていなかった頃、すでに土器作りが始まっていたことになりますが、彼らはもともと獲物を追い求めるハンターだったはずです。なぜ土器が必要になったのでしょう?

そのカギとして考えられるのは、やはり植生や気候の変化です。

「2万年前から1万7〜8000年前までの間に、ナウマンゾウ、オオツノジカなど、長く人々の胃袋を満たしてきた大型獣が姿を消していく。乱獲の結果という説もあるが、北海道でもマンモスゾウがいなくなったように、根本的な原因は温暖化だろう」(注1)

大型動物の絶滅時期については諸説ありますが、この過程で彼らの食に大きな変化が訪れます。温暖化が進むことで植物への依存が増し、その分、肉食の割合が減っていったと考えられるからです。

温暖化は、縄文前期にあたる7000〜8000年前にピークを迎えますが、当時は現在より平均気温が1〜2度高く、その土地の気候に合った豊かな森が広がっていきました。

「山あいを除く西日本から東日本の海沿いの低地にかけては、シイやカシやクスノキが茂り、下草としてシダ類が密生する照葉樹林が発達して、ドングリ類を主とするナッツや、シダ類の山菜、キノコなどの植物食料をもたらした。

また、中部高地や東日本の内陸から東北にかけては、ブナ、ミズナラ、トチノキなどからなる落葉広葉樹林が広がり、クリなどの大型ナッツ類やキノコなどの豊かな植物食料を得ることができた」(同)

シイ、カシ、ミズナラに実るドングリの仲間やトチなどはアクを抜き、加熱しなければ食べられません。

また、採取した木の実を貯蔵する必要も出てきます。土器が必要になるのはごく自然な流れだったのでしょう。

彼らの住み着いた森には、こうした木の実だけでなく、あちこちに川が流れ、そこにはサケが遡上してきます。海沿いも温暖化によって海面が3〜5メートルほど上がり、陸地のあちこちが沈んで溺れ谷ができ、格好の漁場になっていったようです(同)。

イノシシ、シカ、あるいはタヌキ、ウサギなど中型の野生動物はハンティングの対象になりましたし、海沿いで多数の貝塚が出土しているように、豊富な魚介類を採ることができました。

つまり、木の実を貯蔵したり、獣肉や魚介類、キノコなどと一緒に煮炊きし、調理したりすることにも土器は役立てられました。とりわけ木の実に含まれる糖質(でんぷん)は、加熱によって消化されやすくなります。

土器は豊かな自然の恵みの象徴でもあったのです。

農耕が始まる前の社会は、狩猟採集の時代と言われていますが、土器に象徴される縄文時代は、採集の比重が高かったかもしれません。

採集する木の実は、動物と違って動き回りませんから、生活スタイルも移動型から定住型に変化していきます。

つまり、定住型で食べ物は植物性が中心――それが大型動物のハンティングから解放された彼らの新しい生活だったと考えられます。

事実、発掘調査で出土した土器の底などを調べると、わずかに炭水化物が残されていますが、解析の結果、その多くは木の実(堅果類)などの植物であったことがわかっています(注1)。

また、同じく出土した縄文人の骨に含まれるコラーゲンの組成を分析すると、6~7割は植物由来になるといいます(同)。

穀類については、簡単な栽培もしていたと考えられていますし、山芋や里芋などの芋類も食べられていたようです。肉や魚も食べてはいましたが、かなりの割合で植物に依存していたのでしょう。

植物食から肉食へ食性を変えることで脳を大きくし進化した……人類誕生のエピソードを思い出してください。

その後、生まれ故郷のアフリカを離れ、グレートジャーニーと呼ばれる長い長い旅を続け、その一部が日本列島にたどり着き……図らずも植物食主体の生活に回帰することになりました。

以来、極東のアジールでは植物食主体の生活が近代にいたるまで続くことになり、日本食のベースを形作ります。

肉は多く食さず、植物と魚に頼る……列島特有の食生活は、大陸には見られないユニークなメンタリティを作っていきました。

森が生んだ縄文土器

井戸尻考古館(長野県諏訪郡富士見町)所蔵

(つづく)

注1 松木武彦『全集 日本の歴史 第1巻 列島創世記』(小学館)
注2 南川雅男『炭素・窒素同位体に基づく古代人の食生態の復元』(クバプロ『新しい研究法は考古学になにをもたらしたか』所収)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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