5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第2章から日本列島に舞台を移し、まず「縄文」に注目します。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

4アボリジニから学ぶ縄文人の生き方。

2019年8月29日

考古学者の小山修三さんは、オーストラリアの原住民であるアボリジニの生活を調査し、いにしえの縄文人の生活を類推しています。

アボリジニといえど文明の恩恵を受けていますから、完全には重ねられませんが、「同じ狩猟採集経済という条件のなかで生じてくる技術や知識、集団の大きさ、人口密度、社会組織、心理や信仰などには共通した規則性がある」と小山さんは考えます(注1)。

たとえば、テレビなどでこうしたプリミティブな生活を見ていると、原住民は結構ヒマそうにしているでしょう。

それは前述したように、労働時間があまり多くないからです。

狩りをして食事の準備をし、お腹が満たされると、あとは仲間とおしゃべりをしたり、ボーッとしたり……食糧さえ確保できれば、人はそれで十分しあわせに生きられるのかもしれません。

「狩猟採集社会の人びとは短期間激しく働くことはあっても、全体としては遊びの時間が多いという事実は、砂漠や極北などの過酷な環境下にあるブッシュマンやエスキモーなどの民族例でも知られることである。

まして、温帯の恵まれた自然のなかの縄文人は、わたしたちの想像以上に豊かでのんびりとした生活を楽しむことができたのだろう」(同)

こうした時間が当たり前だったら、皆さんは何をするでしょうか? アボリジニについては、次のような報告もあります。

「実際の食料探しのほかに、男なら狩りの道具の手入れ、女なら料理の時間をふくめても、成人男子は1日平均3時間50分、成人女子は3時間44分をさけば、家族を養うことができた。(中略)

他の狩猟採集民についても同様の調査報告がある。(中略)実に未開人は、人類史上最も余暇に恵まれた人たちであったのだ」(注2)

農耕によって働く時間が増え、なおかつ争いも増えたのだとしたら、文明そのものがストレスの温床ということになります。

文明化によってもたらされた利便性、快適さもありますが、狩猟採集型の縄文社会が長く続いた日本列島が、ストレスにさらされる機会がとても少ない環境だったことは確かでしょう。

その分、しあわせを感じる時間が多かったかもしれません。

アボリジニは、その時間を太古の神話と重ね合わせ、自分たちの祖先がしあわせに生きてきた痕跡を親から子へと伝承してきました。

たとえば、オーストラリア中央部に暮らす砂漠の民は、それを「チュクルパ」と呼んでいました。

「チュクルパの記録は、山、川、池、木や石に刻まれた特殊な模様であることもある。そういうものを通して、祖先が今も人々に語りかけているのである。

(中略)画家は絵を指して『チュクルパだ』と言うし、誰かが、儀礼のために不在になったときは、『彼はチュクルパに行ってしまった』という言い方で、それを表現したりする」(注3)

それはドリーミングと訳されますが、言葉にとどまらず、独自の造形表現、ペインティングに彩られたアボリジニ・アートに結実しています。食べて生きる先には、こうしたアートの世界が広がっていたのです。

縄文人も、使用していた土器のユニークな造形からもわかるように、おそらく同じ時間感覚のなかで生きていたでしょう。

日本人は勤勉だと言われていますが、農耕以前の長い歴史のなかではこうした無為の時間を過ごしてきたのです。

縄文人のイメージ

小山修三『縄文学への道』日本放送出版協会より
アボリジニアートの詳細は書籍『アボリジニ現代美術展―精霊たちのふるさと』がおすすめです。

(つづく)

注1 小山修三『縄文学への道』(日本放送出版協会)
注2 寒川恒夫・編『図説スポーツ史』(朝倉書店)
注3 ジェニファ・アイザックス『精霊たちのふるさと』(現代企画室『アボリジニ現代美術展~精霊たちのふるさと』所収)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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