5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第2章から日本列島に舞台を移し、まず「縄文」に注目します。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

5植物との出会いがヒトの生き方を変えた。

2019年9月2日

ここで、ヒトと植物の関わりについて考えてみましょう。

植物は光合成ができるため、日光と空気、水などがあれば生長できます。動物のように食べるために旅する必要はなく、大地に根を下ろし、種を実らせていくことで子孫は自然と増えていきます。

光合成は大気中の二酸化炭素を取り込み、酸素を排出するため、植物が自生する場所には酸素が生じます。

植物にとって酸素は排泄物ですが、動物はその酸素がなければ生きられないため、植物に従属しなければなりません。生物学で植物が独立栄養、動物が従属栄養と呼ばれるのはそれゆえです。

また、植物は食べることもできます。光合成によって養分(でんぷん)がつくりだされますが、これは栄養学でいう糖質にあたり、動物にとって必要なエネルギー源になります。

野菜や果物で言えば、根や実、茎などの部分にあたります。

酸素しかり、糖質しかり……動物は、植物が生きるためにつくりだしたエネルギーを拝借して自らの生命を維持しているわけです。呼吸と食事の原点もここにあることがわかるでしょう。

自然と生きもののつながり


酸素に関しては息を吸えば取り込めますが、食に関しては自ら探し、ほかの生き物を殺めなくてはなりません。

アフリカの森を追われた人類は、主に動物を食べることで生きながらえてきましたが、同じ食べ物でも、植物は動き回らないので獲得は容易です。木の実であれば、なっているものを採るだけです。

彼らはハンターでもありましたが、居住するエリアの森林資源が豊かであればその依存度は減っていきます。植物への依存度が高まるほど暮らしは楽になり、食の多様性が生まれます。

豊かさのカギは植物が握っている、とも言えるのです。

豊かさは価値観の問題にもつながってくるので、ここでは生理的な感覚に即して話を進めていきましょう。

植物からもたらされる豊かさには、神経系が深く関わっています。

動物にあって植物にないもの、それが神経です。動き回る動物にとって外部の刺激に反応し、行動につなげる回路=神経系が不可欠であるということですが、そうやってありつけた食をエネルギーに変えるには、内部の臓器を動かす神経系も必要になります。

感じて動くのに必要なのが体性神経で、感覚神経と運動神経に分けられます。

これに対して、内蔵臓器を動かすのは自律神経と呼ばれ、こちらは交感神経と副交感神経に分かれています。

動物は体性神経が働くことで行動が生み出されますが、その際、身体の内部で交感神経が連動し、血圧や血糖を上げることで外敵に立ち向かうための臨戦態勢がつくりだされます(注1)。

そして、動き回った後は副交感神経に切り替わり、血圧や血糖が下がることで心身は落ち着きを取り戻します。食事にありつけていたら、消化の過程で副交感神経が働くため、安らぎはさらに深くなるでしょう。

こうした安らぎには、もちろん、呼吸器も関わってきます。

心が安らぐ状態は、ゆったりと呼吸ができている状態でもあります。呼吸がゆっくりできている状態と、腸が食べ物を消化できている状態は連動していると言ってもいいでしょう。

神経系から見た動物の特性


酸素があること、でんぷんを摂取すること、どちらも植物によって成り立っていることを思い出してください。

食べて呼吸をするだけでもその恩恵は得られますが、森のような植物に囲まれた場所は「栄養補給」にうってつけです。自律神経から見た場合、生存に最も適した場所と言っていいかもしれません。

食べて、呼吸して、安らぐ……動物が植物と出会うことは、心地よく生きるための土台に接続されていくのです。

(つづく)

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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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