5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第2章から日本列島に舞台を移し、まず「縄文」に注目します。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

6「融合」によって育まれた日本列島の多様性。

2019年9月5日

1万年にわたって続いた森の暮らしが、心地よく生きられる、とても恵まれた環境であったことが見えてきたでしょう。

その後の日本人のメンタリティに大きな影響を与えたことは間違いありませんが、世界史を俯瞰した場合、それは限定的なものです。人類のすべてがその恩恵にあずかっていたとは言えないからです。

農耕を早い段階で始めた地域は、長時間の労働によって、植物の恩恵を生み出さなくてはならなくなりました。

エジプトやメソポタミアなど四大文明と呼ばれるエリアは、長時間労働をせざるをえない土地であり、それゆえさまざまな知恵や技術を生み出し、規模の大きなコミュニティを築いてきました。

いわば、恵まれていなかった分を知恵で補ってきたわけです。

前述のアボリジニにしても、乾燥した砂漠のような土地で暮らしていたため、ハンティングを中心にした生活を続けてきました。

北米のネイティブアメリカン、中南米、南米のインディオも、乾燥した土地でしたから、5000年ほど前から主食となるトウモロコシ、インゲン、ジャガイモなどを栽培するようになりました。

数ある先住民の暮らしは、自然に寄り添ったプリミティブな点では重なり合うものがありますが、植物に守られていた縄文人の暮らしは、その恩恵をとりわけ受けていたように映ります。

その後の歴史についても対照的と言わざるをえません。

たとえばアボリジニの場合、18世紀の後半、突如侵入してきたイギリス人によって平和な暮らしが壊され、100万の人口が短期間で10万人弱にまで激減してしまう虐殺を受けました。

イギリス人は、アボリジニを同じ人と見なさず、野生のディンゴと同じように次々と撃ち殺していったといいます。

ヨーロッパ人における同様の侵略は、大航海時代と言われた15世紀以降、アフリカ、南北アメリカ、東南アジアなど、世界の各地で繰り返されました。北米のネイティブアメリカン、中南米のマヤ、南米のインカの文明も同じように破壊され、いまではその残滓をとどめるのみです。

文化の異なる者どうしが交わり、摩擦が生じることは避けては通れないプロセスと言えますが、あまり褒められた話ではありません。その後遺症はいまも癒えずに残っているでしょう。

もちろん日本列島でも、古来、海の向こうから数え切れないほどの渡来民が渡ってきて、土着の人たちと混血していきました。

そうした渡来民の代表が天皇家であり、畿内の大和に拠点を置き、東へ東へと勢力を広げながら、古くから土着していたグループを制圧し、7世紀には日本という国家が確立されていきます。

その過程には同じような侵略行為もあったはずですが、そこまではひどくなかったのかもしれません。一つの事実として、日本列島にはいまもなお、世界でも珍しい遺伝的多様性が残されているからです。

異なる文化が混じり合い、どちらかがどちらかを呑み込むのではなく、別の何かに生まれ変わること。

その結びつきを、ここでは「融合」と呼びましょう。

日本の歴史に他の先住民の文化と異なる特徴があるとしたら、この融合の繰り返しの中で育まれてきたという点です。

日本列島がアジールたるゆえんもそこにあります。

「ラクして生きられる環境」でありながら、大陸の文明さえ取り込み、いつの間にか自分たちのスタイルに作り替えてしまう。そうした日本列島特有の化学変化は、どのように生じたのでしょうか?

それは風土のなかで自ずとできあがっていったものではありますが、縄文時代が始まって以来、すでに1万5000年ほどの経験がストックされています。縄文の森も大きく変質してしまいましたが、祖先から受け継がれた記憶はいまもわれわれの身体に残っているでしょう。

ここまで欧米化、グローバル化してしまった現代でも、果たしてその記憶や経験は通用するものでしょうか?

通用してほしいですが、それは自分たちの特性をどこまで呼び起こせるかにかかっているかもしれません。

いまわれわれに必要なのは、埋もれている遺伝子を発現させる……まさに「汝自身を知れ」ということです。汝自身を知るため、しばらく発想転換のトレーニングをしていきましょう。

縄文一万年の記憶


(つづく)

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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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