5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第3章では、いよいよ日本人のアイデンティティである「和」と「太陽」の本質に迫ります。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

2「太陽信仰」と「北極星信仰」

2019年9月16日

このふしぎな問いかけを残してくれたのは、美術評論家で杉野女子大学の教授をされていた吉村貞司さんです。

古代史に通暁していた吉村さんは、「縦」という文字に注目しています。

辞書を引くと「ほしいまま」「思いのまま」といった意味が出てきますが、それは一般に連想されるタテ(上から下へ伸びる一本のライン)のイメージとは明らかに異なっています。

じつは漢字を発明した中国人は、上から下へ伸びる基準に対して縦ではなく「経」という文字を用いてきました。

「経」は、機織りで使うタテ糸を意味します。タテ糸は布を織る際の基本であることから、転じて物事の道理、一定不変の法則といった意味につながり、経文、経典などの語にも用いられてきました。

それこそが、一般に思われているタテでしょう。

タテは訓読みですから、古代の日本人が方位を定める際の基準をタテと呼んでいたことは想像できますが、中国から伝わってきた漢字を当てはめた時、「縦」の意味がフィットしていた。

つまり、彼らにとっては「ほしいまま」「思いのまま」の感覚こそが「物事の道理、基準」だったということです。

「縦=ほしいまま」が基準になると、現実はどう変わるのでしょう?

東から昇り西へ沈む太陽は、不動の北極星と違って、毎日、昇ってくる場所も沈む場所も違ってきます。

季節によって移ろうその動きは、まさに自然のありようそのもの。縦という文字が持つほしいままのイメージと見事に重なり合ってきます。吉村さんは、この点をふまえ次のように語ります。

「北極星はその場をはなれず、はなれないことによって秩序を形成する。

ところが太陽は空にあっても、時々刻々、絶えず動いてとどまらない。日出も毎日場所が変るし、日没もまた同じである。

北極星は静止であり、死であり、永遠であるのに対し、太陽は絶え間なく動であり、生命であり、現在である。(中略)北極星の経と、太陽点による縦とは、(中略)全く正反対の世界をつくりあげている」(注1)

われわれが思っているヨコを、タテ(基準)として認識する社会。

そのルーツは、『日本書紀』に登場する成務天皇の時代どころか、おそらく縄文時代までさかのぼれるでしょう。

なぜなら、ゆうに1万年続いたというこの時代、これまで述べてきたように、日本列島は気候に恵まれ、食べるのにあまり困らない、ほしいままに生きられる環境が用意されていました。

このような環境のなかでは、ほしいままに動く太陽を信仰することはごく当たり前のことだったかもしれません。逆に、天空の不動の星(北極星)を信仰する発想は生まれにくかったでしょう。

北極星は、ユーラシアの広大な草原を疾駆する騎馬民、遊牧民にとってこそ必要な道標であり、後世、それはキリスト教のような一神教信仰とつながり、西洋社会の秩序になっていきました。

その意味では、ざっくりと次のように区別してもいいでしょう。

北極星信仰 → 不動の秩序・真理 → 一神教

太陽信仰 → ほしいまま・あるがまま → 多神教

事実、日本列島では、自然は猛威を奮う厳しい対象ではなく、豊かに包み込み、育んでくれる存在として受け止められていました。

そのなかで、天に大きく浮かぶ太陽をつねに仰ぎ見、意識を向ける感覚が芽生えていったと言えますが、太陽信仰も北極星信仰も、自然の法則に支配されている点は変わりありません。

ほしいままといっても、法則を無視しているわけではありません。

日本列島で暮らす人たちにとっては、縦軸=東西に動く太陽の運行ラインこそが秩序であり、タテ=基準でした。

北極星から伸びる南北のラインに慣れていると曖昧で、とりとめなく感じられがちですが、むしろそれが秩序なのです。

「経」から「縦」へのパラダイムシフト


太陽信仰をベースにしていた古代の日本人は、太陽の運行=東西のラインをタテ(縦)として認識していた可能性がある。

(つづく)

注1 吉村貞司『原初の太陽神と固有暦』(六興出版)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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