5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第3章では、いよいよ日本人のアイデンティティである「和」と「太陽」の本質に迫ります。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

3日本人の自然観と「暦」の感覚

2019年9月19日

古代人の気持ちになってもう少しイメージを膨らませてみましょう。

いま住んでいる三浦半島の葉山では、相模湾を挟んで遠方に小田原から伊豆にかけての山並みが広がっています。

その山並みのさらに向こうには、富士山が控えています。

夕暮れ時に海岸を散歩すると、山並みの向こうに沈んでいく太陽の位置が、毎日少しずつ移動しているのがわかります。

おそらく、もっとじっくり観察していけば、「山並みのあの位置に太陽が沈むようになったら、そろそろ暖かくなる」といったふうに、季節との相関も感じとれるかもしれません。

この東西のラインが基準(=タテ)になったことは想像できますが、古代人の観察はそれだけにとどまりません。

太陽の動きに一定の周期があることがわかってくると、次第に春分、秋分、夏至、冬至などの区分が認識されていきます。そうやって整備されたのが、二十四節気であり、七二候です。

二十四節気は、季節の移ろいを24に分けてとらえるため、1年を365日とした場合、24等分された15日ほどをかけて季節が少しずつ移り変わっていくのが感じとれます。

七二候となるとさらに3等分されるため、わずか5日という短い日にちで季節の変化をとらえられるわけです(注1)。

このほかにも、節分、彼岸、入梅、八十八夜、土用といった区切りもあり、こちらは雑節と呼ばれていました。

二十四節気と七二候


一方、月の満ち欠けが一定の周期をつくっていることが観察されることで、それも基準の一つになっていきました。

太陽の動きが季節の移ろいを反映しているとしたら、こちらに関わっていたのはもう少しミニマムな身体の変化。月の運行によって引力が生じるため、重力下で生きている私たちの身体は月の運行リズムになんらかの影響を受けている可能性があります。

科学的な実証はまだ十分とは言えませんが、月のサイクルが約29.5日であるのに対し、女性の生理周期は約28日。肌のターンオーバーもおなじく28日ほどと言われています。

月の運行をベースにした太陰暦では月の初めの1日が新月、15日が満月(十五夜)と、文字通り、ひと月が月のサイクルで循環していました。この月のサイクルは体の代謝リズムと重なり合っていたため、古来、太陰暦を採用する国や地域が多かったのかもしれません。

日本列島では太陰暦ではなく、太陽暦と太陰暦をかけ合わせた太陽太陰暦がつくられ、生活の基準として用いられてきました。

合理的な視点から見れば、日付と季節がずれない太陽暦のほうが優れていますが、それでは身体のリズムが置き去りになります。身体の内側のリズムと外側のリズム、昔はこの二つのリズムを重ね合わせることに重きが置かれてきたということでしょう。

日本の場合、自然の変化を感じとる力は、暦を生み出した中国大陸よりも備わっていたかもしれません。文明のスケールでは比べるべくもありませんが、縄文時代の1万年をふまえればわかるように、自然と寄り添って暮らす時間ははるかに長かったと言えるからです。

それは、一見不安定にも思える自然の移ろいをそのまま受け入れ、そのサイクルの中で生きていく融通無碍の感覚。

こうした縄文時代の自然観が温存され、のちの時代の人々の生き方にも否応なく影響を与えていくことで、文明化されながら自然への畏敬が色濃く残る、日本特有の文化が生まれたのです。

太陽と月を「暦」でむすぶ


(つづく)

注1 たとえば立春は、「東風解凍」(はるかぜこおりをとく)、「黄鴬睍睆」(うぐいすなく)、「魚上氷」(うおこおりをいずる)に分けられる。詳しくはこちらを参照。
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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