5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第3章では、いよいよ日本人のアイデンティティである「和」と「太陽」の本質に迫ります。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

6三輪山に残された古代の太陽信仰

2019年9月30日

ここで再び、太陽信仰の話に戻ることにしましょう。舞台となるのは、のちの大和朝廷のお膝元、奈良です。

奈良は「大和」と称されてきたように、話し合いをベースにした縄文以来のコミュニティ(=和)が統合され、一つの国(=大和)にまとまっていった、古代日本の要のような土地です。

奈良というと平城京のあった奈良市周辺が思い浮かびますが、国が生まれようとしていた黎明期、東南方にある三輪山の一帯(現在の桜井市周辺)に王権の中心があったと考えられています。

この一帯には、弥生末期~古墳時代にかけての代表的な集落遺跡である纒向(まきむく)遺跡が広がり、初期の前方後円墳として知られる箸墓(はしはか)古墳など、大小様々な古墳群が点在しています。

大和は国のまほろば


一つ一つ謎解きしていきたいところですが、ここでは日本最古の神社とされる大神(おおみわ)神社に注目しましょう。

正確な創建年代はわかりませんが、『古事記』や『日本書紀』を見ると、天皇家が畿内に進出する以前、すでに三輪山がご神体として祀られ、広く信仰されてきたことがわかります(注1)。

そう、大神神社では山が神様なのです。

事実、境内には祭神を祀った本殿がなく、拝殿しかありません。拝殿の奥にある三ツ鳥居を通し三輪山を拝するという、まさにアニミズムを体現したような造りになっています。

その意味では、縄文のエッセンスが受け継がれた社(やしろ)と言っていいかもしれませんが、ここで注目したいのは太陽です。

三輪山の山頂には、日向御子神を祀った高宮神社があります。

歴史学者の和田萃(あつむ)さんは、山麓にある神坐日向(みわにいますひむかい)神社と関連させつつ、次のような指摘をしています。

「日向(ひむかい)というのは太陽を祀ることです。いわゆる日神祭祀の神祀りの場であったということです。

近世以前は三輪山の山頂に日向神社があったのです。(中略)

明治になって神坐日向神社は山麓に降ろされて、大神神社の大礼記念館の南側に遷されましたが、室町時代の大神神社境内の絵図を見ますと、頂上にみえています」(注2)

この指摘をふまえるならば、古来、三輪山は日向=太陽信仰の山だったのでしょう。

日向には日の差す方向という意味もあるように、大和盆地から見ると東にある三輪山から日が昇ります。

とりわけ春分と秋分の日には、三輪山にほど近い桧原神社を背に真東から太陽が昇り、大和盆地を挟んだ反対側、二上山(にじょうざん)の雄岳と雌岳の間に夕日が沈んでいくといいます。

古くからこのロケーションが愛され、円錐形の稜線が美しい三輪山が信仰の対象とされてきたのも頷けます。

太陽信仰にまつわる話はこれだけでは終わりません。

もう一つ注目されるのは三輪山の南西方、『万葉集』にも歌われた有名な大和三山、すなわち天香山(あまのかぐやま)、耳成山(みみなしやま)、畝傍山(うねびやま)です。

古代史ミステリーのような話になりますが、この3つの山を地図上でつないでみると、不思議なことに、畝傍山を頂点にした正確な二等辺三角形が浮かび上がってきます。

しかも、その三辺はピタゴラスの定理で割り出せる整数比(5:12:13)と重なるといいますから、偶然にしてはできすぎています。

古代史家で建築家の渡辺豊和さんによると、この二等辺三角形の垂直二等分線を延ばしていくと、「三輪山山頂下の広大な張り出し舞台状の大地の中心を通る」といいます(注3)。

「この中線の角度は、東西軸に対して28度50分となり、実に冬至の日の『日の入り』の方向とピタリと一致している」(同)

つまり、三輪山の張り出し舞台に立つと、冬至の日に畝傍山の向こうに日が沈んでいくのがわかるわけです。逆に、夏至の日に畝傍山に立つと、三輪山の向こうに日が沈んでいくのがわかります。

三輪山周辺の太陽信仰


3つの山がなぜ二等辺三角形で結ばれるのか? しかも、測量に用いられる整数比で……このあたりの真相はよくわかりませんが(注4)、ここにも太陽信仰の痕跡が見え隠れします。

古代の王権が成立する初期段階に太陽信仰が深く関わりあっていたこと自体、おそらく確かなのでしょう。

(つづく)

注1 『古事記』崇神天皇二(三輪山の大物主神)、『日本書紀』巻第五(崇神天皇)より。
注2 和田萃『三輪山の神と周辺の神々』(大神神社・編『古代大和と三輪山の神』学生社、所収)
注3 渡辺豊和『縄文夢通信〜縄文人は驚くべき超文明を持っていた』(徳間書店)
注4 渡辺さんは、耳成山、天香山は太陽観測のためにつくられた人工造山であり、畝傍山、三輪山も同じ目的で一部整形されたと推測している。
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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