5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第3章では、いよいよ日本人のアイデンティティである「和」と「太陽」の本質に迫ります。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

11温存された「和」と「太陽」のエッセンス

2019年10月17日

なお、ヨーロッパの二重構造の媒介となったのはキリスト教であり、それは正統と異端の対立という形で展開されました。

この対立軸が「対立するものこそ異端であり、悪である」という異質物への攻撃性につながると同時に、ヨーロッパ内部の自己発展、対外的な経済発展の起爆剤になったということでしょう。

アニミズムの世界が残存した日本では、こうした一神教が生み出す攻撃性は肌に馴染まず、対立が生まれてもどこか甘さがにじみ出ます。ヨーロッパのような深刻な対立が生まれにくい分、問題は先送りになりやすく、敗者であっても完全に滅ぼされるとは限りません。

争いはたえずありますが、争いに後ろめたさを感じ、勝利を得た後でも敗者が気にかかってしまう社会です。文明社会のなかでは、競争原理になりそうでならない、内部にゆるやかな二重構造を抱えた日本という国そのものが異質と言うほかありません。

このあたりをふまえ、再び太陽信仰の話に戻りましょう。

太陽の運行を「ほしいまま」と表現した吉村貞司さんは、古代の日本人が大切にしてきた感覚を「相対の中の絶対」と呼びました(注1)。

その言葉の通り、移ろいゆくもの(相対)のなかにも確たるもの(絶対)は必ずあります。吉村さんは、それを太陽の運行に求め、時間と空間が溶け合っていた世界としてとらえます。

そのうえで、日本の風土を西洋で生まれた「パースペクティブ(遠近法)で切り取られた世界」と対置させました。

「パースペクティブでとらえられる空間は、時間を全く切り棄てたものである。

つまり空間は時間を全くふくまず、時間はいっさい空間に関わりないものである。こうして、空間は純粋空間に、純粋時間になってしまう。まざりけがないので、とてもとりあつかいの便利なものになる」(同)

遠近法は、目の前の空間をありのままにとらえる写実的手法としてヨーロッパの絵画に大きな影響を与えました。

そこに一つのリアリズムが生まれたのは確かですが、実際にその空間に立った時、われわれはまったく違ったものを受け取ります。その瞬間、描かれたリアルは消え去り、遠近法、写実主義には収まりきらないエネルギーが充満していることに気づかされるからです。

そこに流れているのは、「空間の中の時間」です。季節の移ろい、太陽の運行もここに関わってきます。古代の日本人は、こうした時間と空間が混ざり合った自然の象徴として太陽を尊んだのでしょう。

近代以降、日本列島で生まれた二重構造のなかにヨーロッパで生まれた二重構造が押し寄せ、日本人の生き方は大きく変わりました。この複雑な状況下で求められるのは、どんなことでしょうか?

にわかに答えられる問題ではありませんが、おそらくそれは理性的に描かれる方法論とは別のものでしょう。

理性が世界の複雑さについていけなくなったら、恐れずにその理性から離れてみる。二重構造のなかで温存されてきた和と太陽のエッセンスは、その際の道標となる歴史遺産かもしれません。

「時間」と「空間」が溶け合った世界


(つづく)

注1 吉村貞司『原初の太陽神と固有暦』(六興出版)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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