5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第3章では、いよいよ日本人のアイデンティティである「和」と「太陽」の本質に迫ります。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

12コラム/和をもって「ホオポノポノ」となす?

2019年10月21日

日本列島から東、そこには太平洋が広がっています。

古代の人にとっては、文字通りの大海原だったと思いますが、その広大な海域にはいくつもの島が点在し、ゆったりした流れで人が行き来し、島ごとに独自の文化が紡がれていきました。

日本列島以上に大陸から隔離されていたこともあり、こうした島々の歴史は決して古くはありません。

ハッキリしたことはわかっていませんが、ハワイ諸島にポリネシアンが最初に渡来したのは、いまから1000年ほど前。西洋文明との最初の接触はキャプテン・クックが来航した1778年ですが、おそらく古代社会にいきなり近代が入り込むような状況だったでしょう。

日本には中世という発酵期間があり、さらには江戸時代の内部発展を経て、黒船来航に遭遇しましたが、ハワイはこうしたクッションなしに外部刺激を受け、変化を強いられました。

以後、西洋の文明・文化が徐々に侵食し、ハワイ王朝は斃れ、ハワイアンのライフスタイルも大きく変容していきますが、この過程で最も強い影響を及ぼしたのはやはりキリスト教でしょう。

キリスト教=一神教文化が入り込んでくることで、ハワイの社会はどのように変わっていったのか?

一例として、この章で取り上げた「ホオポノポノ」の話をしましょう。

ホオポノポノは、一般的には「愛しています」「ごめんなさい」「許してください」「ありがとう」という4つの言葉を唱えることでネガティブな感情を手放し、浄化させるメソッドとして紹介されています。

スピリチュアル系の関連書を読んだ人もいるかもしれませんが、それは「古くからハワイに伝えられてきたホオポノポノのエッセンスの一部を取り出し、現代にマッチするようにアレンジしたもの」(注1)。

本来は「日常の中でゆがんで、ずれてしまったものをもとの自然な状態に戻す」という意味であったといいます。

ゆがんでいたものをもとに戻すとはどういうことでしょうか?

たとえば、人間関係のもつれで感情がゆがみ、気が病んでしまった時、古代ハワイでは霊能力を持ったカフナ(注2)が感情の浄化をうながす様々な儀式を行ってきたと言われています。

日本の神道に残る祓いや禊と重ね合わせてもいいでしょう。

ただ、人口が増えていくなかで、こうした個人に対する儀式よりも、家族が一堂に会し、話し合うことが問題解決の技法として広まっていきました。西洋文化が入り込み、キリスト教の影響が増していくまでは、「話し合い」が感情の浄化の手段として活用されていたようなのです。

和の文化とのつながりを感じたかもしれませんが、そもそも話し合いにそんな効果があるのか? そう感じた人は、「話し合い」と「討論」をどこかで混同してしまっているのでしょう。

英語にすると、話し合いはダイアローグ(dialogue)、つまり、対話と言い換えられます。これに対し、討論はディベート(debate)。ディスカッション(discussion)もニュアンス的に近いでしょう。

世の中では後者のような対決型コミュニケーションがまだまだ主流だと思いますが、難しいのは「自分の意見が通せたとしても、相手とわかりあえるとは限らない」という点です。

わかりあえないどころか、しこりが残るかもしれません。恨みや怨念が残って、別の場面で足を引っ張られることもあるでしょう。

幸福学の研究者である前野隆司さんは、こうした討論の限界を打破するカギとしてダイアローグに注目し、その原風景は「火を囲んで皆で語り合った」古き時代にあったと語ります(注3)。

そこで求められるのはロジックよりもフィーリングであり、語り合うことは感情の解放にもつながったでしょう。実際、日本の社会は、こうした「古層の記憶」を失わずに保持したまま、古代から中世、近代、そしてグローバル化する世界へと飛び込んでいきました。

日本の和の文化、話し合いの手法は曖昧だと批判されがちです。実際、そういう面も多々あるでしょう。

でも、ディベートとの違いがしっかり認識でき、技法としてのダイアローグが使いこなせれば、それは新しいツールになりえます。わかりあうことはそれ自体が癒しであり、幸福感につながるからです。

温故知新、まさにホオポノポノこそがダイアローグなのです。

(おわり)

注1 『レイア高橋インタビュー』(ハンカチーフ・ブックス『TISSUE vol.2』所収)
注2 注47・古代ハワイ社会における、その道の専門家。医師、神官、職人など、様々なカフナがいたとされる。
注3 前野隆司・保井俊之『無意識と「対話」する方法〜あなたと世界の難問を解決に導く「ダイアローグ」のすごい力』(ワニブックス)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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