5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第4章では、日本の食文化のベースになったコメ(米)との関わりについて、神話と古代史を行き来しながら掘り起こします。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

1神話からたどる稲作農耕のはじまり

2019年10月25日

京都北部、丹後国の一の宮に、籠(この)神社と呼ばれる古い社があります。

その起源は古く、『古事記』の記述によると、祭神である彦火明命(ヒコホアカリノミコト)は瓊瓊杵命(ニニギノミコト)の兄にあたることになっています。

瓊瓊杵命と言えば、天孫降臨の物語の主人公で、天照大神(アマテラスオオミカミ)の命で日向の地(宮崎県)に降り立ったとされています。

天孫降臨という言葉がイメージしにくい人は、「大陸から九州にやって来た渡来民のリーダーが日向を拠点にして開拓を始めた」というふうにとらえると歴史の流れと重ねやすいかもしれません。

こうした渡来民のグループが稲作の伝播に関わっていたことは歴史的にも明らかですが、九州を拠点にした瓊瓊杵命のグループは、のちに畿内に進出し、天皇家の祖になります。

いまも皇室が続いていることを考えたら、まさに渡来民の「勝ち組」と言えますが、畿内にすんなり入れたわけではありません。『古事記』や『日本書紀』にも書かれているように、すでに別の開拓民グループが先住し、勢力を広げていたからです。

畿内に進出したのは、瓊瓊杵命のひ孫である神日本磐余彦 (カンヤマトイワレヒコ=神武天皇)で、神話では「神武東征」と呼ばれています。

一方、畿内の大和にはこの東征に最後まで抵抗した長髄彦(ナガスネヒコ)、伊勢には道案内を買って出た猿田彦などが先住していましたが、籠神社の社伝には彦火明も丹後の地に降臨していたことが記されています(注1)。瓊瓊杵命と兄弟であったかはともかく、彼も開拓民のリーダー的存在だったのでしょう。

“稲作開拓民”の系譜

『古事記』の記述をもとに作成。系図にある天火明命は、籠神社の祭神・彦火明命と同一神と考えられる。

古来、日本海に面した京都の中部~北部、さらに兵庫の一部にかけての一帯は、「丹波」と呼ばれていました。

のちに丹波、丹後、但馬の3国に分割されますが、当初はこのかなり広大なエリアが一つのコミュニティとして認識されていたのです。

当時、これだけのエリアが一つにまとまっていたということは、おそらく畿内でも有数の開拓地だったからでしょう。

それは、丹波の語源が「田庭」とされることからも想像ができます。田んぼの庭……まさに一面に広がる田園風景が浮かんでくるように、コメとの結びつきは他の地域以上だったかもしれません。

開拓地としての「丹波」

なにしろ、籠神社には「穀物の神様」である豊受大神(トヨウケノオオカミ)が祀られています。

豊受大神というと、伊勢神宮の外宮に祀られている神様として知られていますが、もとは丹波で信仰されていた穀物神で、雄略天皇の時代に伊勢神宮に迎え入れられたと言われています。

要は、ローカルな穀物神が国の祭祀を司る社に迎え入れられ、時代とともに全国区の存在になっていったのです。

その意味では、籠神社に祀られる彦火明も相当な実力者だったのかもしれませんが、畿内で王権が確立する前の時代です。各地に大小さまざまなグループが土着し、開拓に勤しんでいたでしょう。

彦火明、長髄彦、猿田彦……こうした神話のキャラクターが実在したかどうかよりも、「天皇の候補者になるようなリーダーがたくさんいた」という、この時代の歴史の大づかみな流れが重要です。

神話のなかには、縄文から弥生、古墳時代へと移り変わる、日本列島の国のあけぼのが描かれているのです。

(つづく)

注1 若狭湾に浮かぶ冠島を経て、丹波に降り立ったとされています。
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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