5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第4章では、日本の食文化のベースになったコメ(米)との関わりについて、神話と古代史を行き来しながら掘り起こします。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

2稲作文化に受け継がれた「太陽信仰」

2019年10月28日

稲作は西日本から始まり、徐々に東へ、東へと広まっていきました。

一万年にも及んだという縄文時代がなぜ終焉し、その過程でなぜこうも急速に稲作が広まっていったのでしょう?

環境考古学者の安田喜憲さんは、前述した花粉分析の結果をふまえ、約3200年前を境に地球が寒冷化し、日本列島でもライフスタイルの転換が迫られたことを指摘しています(注1)。

日本列島では、縄文時代の晩期にあたる頃です。

まず北緯35度以北の地域が寒冷化し、乾燥していた土地が湿潤化、湿潤だった35度以南が逆に乾燥化したといいます。それまで暖かかったところが寒くなったり、乾燥したり……安田さんは、こうした激しい気候変動を東アジアの民族大移動に重ね合わせます。

「気候変動によって北から民族が南下してくる。中国は大混乱におちいり、殷・周革命・春秋戦国時代の混乱期がはじまる。

そのなかで、おそらくは社会的な動乱を逃れた人々が、国を脱出するためにボート・ピープルになり、これが初期の稲作をもたらしたのではないかというのが私の仮説である」(同)

まさに「項羽と劉邦」の時代です。

食べられなくなることで動乱が起こり、そこに英雄が現れ、新たに食べさせる仕組み=漢王朝がつくられていきましたが、そのからあぶれてしまった人たち、敗れて逃げる人たちもいたわけです。

そうしたなかに、最新の稲作技術を携え、日本列島にやって来た亡命グループもいたということでしょう。

日本列島も寒冷化のあおりを受けていましたから、従来のようにオーク(ドングリ)には頼れなくなっていました。気候変動は1000年ほど続いたため、この間に徐々に稲作が広まり、ドングリからコメへ、ライフスタイルの転換を余儀なくされていっていったのでしょう。

縄文人の間で感染症(ATL)が蔓延していた可能性もあり、寒冷化と疫病で弱っていた人々にとって、新技術を持った渡来民の存在は希望の星だったかもしれません。

ここで再び、籠神社に話を戻しましょう。

丹後の一の宮である籠神社は、古来、「元伊勢」と呼ばれてきました。元伊勢は、伊勢神宮が現在の地に創建される前、一時的に祀られていたという伝承を持つ複数の神社を指しますが、伊勢神宮は何と言っても、天照大御神を祀る日本の神社の総元締めのような社です。

政務の中心となった大和に創建できず、伊勢に落ち着くまでにも各地を転々とした伝承が残っているのはなぜなのでしょう?

神話研究の第一人者であった松前健さんは、伊勢に古くからあった太陽信仰に着目し、次のように指摘します。

「伊勢神宮が皇祖神とされる前に、この地方に古いローカルな太陽信仰があったらしいことは、いろいろの学者が論証しようとしている。

二見ガ浦の輪ジメ縄や、神島の正月のゲーター祭り、グミの枝で作った日像の輪なども、みな太陽のシンボルであり、古い民俗行事と思われる。東南アジアや中国で、太陽にゆかりのある鳥とされている鶏が、神宮の祭りには、古くから重要な位置を占めていることなども、そうした証拠であろう」(注2)

太陽信仰が縄文時代の頃から続いてきたことはすでに指摘しましたが、古代においても継承され、とりわけ伊勢では神宮が創建される以前からさまざまな習俗、祭事が続いてきたのでしょう。

いや、こうしたローカルな太陽信仰は、伊勢にとどまらず、畿内全域に広まっていたことが窺えます。

たとえば、どこまで関わりがあるかはわかりませんが、籠神社の祭神である彦火明は「天照国照彦天火明命」、あるいは「天照国照彦天火明櫛玉饒速日命」といった別名を持っています。

そう、太陽神でもある天照大御神の名前が入っているのです。別の見方をすれば、古くからあった太陽信仰、穀物信仰を取り込み、天皇家は畿内の王権を固めていったことも考えられます。

それでもなお、先住グループの力が強かったため、地位は不安定で、長い間、祖先の祭祀すら満足にできなかった……伊勢に皇祖神が祀られた背景はそのあたりにあったのでしょう。

状況次第では、稲作開拓民の有力なリーダーであった丹波の彦火明が天皇になる可能性もあったかもしれないのです。

3200年前の気候変動と民族移動

安田喜憲『縄文文明の環境』(吉川弘文館)をもとに作成。

渡来民は亡命者だった?

(つづく)

注1 安田喜憲『縄文文明の環境』(吉川弘文館)
注2 松前健『謎解き日本神話~現代人のための神話の読み方』(大和書房)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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