5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第4章では、日本の食文化のベースになったコメ(米)との関わりについて、神話と古代史を行き来しながら掘り起こします。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

4縄文と弥生をつなぐ「ミシャクジ」信仰

2019年11月4日

日本列島は全土にわたって満遍なく森に覆われていますが、東と西とでは植生がかなり違っています。

縄文文化を生み出したブナの森は落葉広葉樹の森で、高山が多く、雪がよく降る東日本を中心に広がっていました。

一方、西日本を中心に広がっていたのは照葉樹林です。

こちらも広葉樹の仲間ですが、シイ、カシ、クスノキのように葉が艶光りした常緑樹で、食用に適した木の実はそれほど採れません。鬱蒼としていて、人が住みやすい環境とは言えなかったようです。

日本列島の植生

市川建夫『ブナ帯と日本人』(講談社)をもとに作成。

縄文人が東日本に多く暮らしていたのは、住み心地がよく、木の実が多くなる落葉広葉樹=ブナの森が広がっていたからだと言えますが、寒冷化はそうした彼らのライフスタイルにも影響を及ぼしました。

おそらく、3000年ほど前を境にじわじわと食糧不足に陥る機会が増えていったのでしょう。

もちろん、彼らは木の実ばかりに依存していたわけではなく、縄文中期からイネ、ヒエ、アワ、キビなどの栽培が始まっていました。

ただ、その頃の稲作は陸稲が中心で、多くの人口が養える水稲耕作が本格導入されるようになったのは縄文晩期の頃だと考えられます。

稲作(水稲耕作)を受け入れるかどうか? どの時代であっても、食べることは生命に関わる重大時ですが、日本列島ではそれが異なる文化の融合を生み出す契機になっていったのです。

たとえば、長野の諏訪地方は縄文中期(5500~4500年前)の遺跡が密集する一大エリアでしたが、後期~晩期にかけてその数は減っていき、徐々に稲作文化が入り込んできます。

といっても、縄文の文化が完全に失われたわけではありません。

宗教人類学者の中沢新一さんは、諏訪に古くから伝わる「ミシャクジ」と呼ばれる特有の信仰に着目し、「縄文文化と弥生文化が混合して新しい信仰形態が生まれた」と指摘します。諏訪大社の祭祀が浸透するなかで、古い時代の信仰が抑圧されることなく、ずっと残り続けたというのです。

「ミシャグチは諏訪信仰の世界では、村はずれの境界に祀られているわけでなく、そこになんらかの差別の感情や思考がまつわりついているわけでもなく、むしろ堂々と人々の中心に位置していた神なのである」(注1)

諏訪大社に祭神として祀られているのは出雲からやって来た建御名方神(タケミナカタノカミ)ですが、上社の神官である諏訪氏の補佐役は守矢氏が務めてきました。この守矢氏が祀っていたのがミシャグチなのです。

建御名方神の子孫である諏訪氏が稲作開拓民のリーダーであったとすれば、守矢氏は古い縄文文化を守る地域民の代表。諏訪では両者が折り合いをつけながら、歴史が刻まれていったのでしょう。

そもそも、諏訪大社は上社と下社に分けられますが、農耕にまつわる祭事の多い下社に対し、上社は狩猟民的な祭事が色濃く残っています。

日本列島の東西の境目にあたる中部日本の諏訪には、縄文と弥生が融合した痕跡が色濃く残されているのです。

諏訪の「二重構造」

(つづく)

注1 中沢新一『精霊の王』(講談社)。ミシャグチのほかに、ミシャクジとも発音する。
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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