5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第4章では、日本の食文化のベースになったコメ(米)との関わりについて、神話と古代史を行き来しながら掘り起こします。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

5稲作文化に対抗した奥州藤原氏

2019年11月7日

のちの時代、権力の主流から外れた皇族が都落ちし、地方の開拓民として再起を図り、武家の勢力として台頭していきます。

源氏と平氏がその代表ですが、時代は違えど、彼らの実態も農耕開拓民のリーダーであり、その一部は関東に進出していきます。やがて勝ち残った源氏が鎌倉に幕府を築き、以後700年続く武家政権の礎となりますが、彼らはなぜ関東に土着したのでしょうか?

いろいろな背景がありますが、一つ言えるのは、関東平野の一帯がまだ十分に開拓されていないフロンティアだったからです。

事実、東へ東へと広まっていった稲作は、植生が変わる中部日本のあたりから伝播の速度が弱まり、停滞しはじめます。縄文時代が終わって弥生時代が始まったという単純なものではなく、以後、日本列島では西と東にふたつ国があるような状況がずっと続くのです。

日本列島に特有な二重構造の一端と言えますが、その影響はもちろん食の世界にも及んだでしょう。

信州学を提唱した地理学者の市川建夫さんは、前述した東日本のブナ林文化と西日本の照葉樹林文化を対比させつつ、食における二重構造を「コメとヒエの対立」として描きます。

「中世以降、東日本の平坦部でも稲作が発展し、照葉樹林文化が定着した。

しかし東北地方や中央高地の山間部など、気候的に照葉樹林文化を受容できなかったところでは、ヒエ、ソバなどの栽培を中心としたブナ林文化複合を伝えていた」(注1)

稲作の文化が徐々に東へ広まっていく過程は、大和朝廷の勢力圏の拡大と重なり合いますが、稲作が関東に普及したのは鎌倉時代に入って以降だと言われています。中部日本の山間部に至っては、戦後になって以降もソバを主食にしてきたところが多かったようです。

縄文の香りを残す食文化は、そのままそこで暮らす人たちのライフスタイル、コミュニティ、政治のあり方にもつながり、長期間にわたって「もうひとつの日本」を成り立たせてきました。

歴史的によく知られているのは、平安時代後期にあたる11~12世紀、東北の覇者として君臨した奥州藤原氏の存在でしょう。

「東北地方のブナ林帯には稗(ヒエ)作を中心にした農耕文化が続いており、そこには大和朝廷に属さない独自の政権が成立していた。

その最後の政権が、清衡・基衡・秀衡・泰衡の藤原四代である。

彼らは大陸から仏教文化を直輸入して絢爛たる平泉文化を築いていた。その物質的基盤になったのは金や鉄などの鉱産物や馬産であったが、彼らの主要な食糧源はヒエであった」(同)

中央の稲作文化に抵抗した奥州藤原氏は、もうひとつの日本の象徴として輝きを残しますが、最後は源氏に攻め滅ぼされます。

市川さんは「雑穀と比較するとカロリー換算で3~5倍以上に達する」という米の生産性に着目し、奥州藤原氏の敗北は、コメとヒエの生産力の差から生まれた経済格差にあると語ります。

ただ、彼らを滅ぼした源氏も中央から離反した関東の開拓民であり、中央と辺境、日本列島特有の二重構造は残りました。その意味では、縄文のスピリットは武士たちに受け継がれたのでしょう。

なお、この二重構造の相克を、敗者となった奥州藤原氏の視点からつづったのが、高橋克彦さんの小説『炎立つ(ほむらたつ)』です(注2)。

『将門記』『陸奥話記』にはじまり『平家物語』『義経記』にいたるまで、二重構造の敗者の側に立って歴史を描くのは日本の軍記物の真骨頂ですが、それは過去の話にとどまりません。

同作はその韻を踏み、もうひとつの日本のすがたを描き切っています。

(つづく)

注1 市川建夫『ブナ帯と日本人』(講談社)
注2 高橋克彦『炎立つ 巻壱・北の埋み火~巻伍・光彩楽土』(講談社)
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プロフィール

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長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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