5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第4章では、日本の食文化のベースになったコメ(米)との関わりについて、神話と古代史を行き来しながら掘り起こします。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

7コメの霊力と天皇家の祭祀

2019年11月14日

ここで再び、丹後の籠神社の話に戻りたいと思います。

籠神社というネーミングに初めて接したとき、もしかすると「おかしな名前だな」と思ったかもしれません。

社伝によると「彦火明命が、竹で編んだ籠船に乗って海神の宮(龍宮、常世)に行かれた」という故事が由来だということですが(注1)、日本語には二重三重の意味が重ねられることがあります。

たとえば、「籠」という字を辞書で引くと、「籠る=気体などが満ちる」といった意味が出てきます。

籠神社の祭神が穀物の神=豊受大神であることをふまえると、種に宿った生命、エネルギーがそこに重なり合うでしょう。

そもそも、コメという言葉自体、一般に使われるようになったのは平安時代以降と言われますが、「籠める」「籠る」という意味が含まれていると言われています(注2)。何が籠っているのかと言えば、それはやはり生命であり、エネルギーと言うほかありません。

そのエネルギーを表す「気」という文字にしても、もともと旧字では「氣」と表記されていました。

米粒が四方に広がるイメージを表しているとされますが、こちらも種から放出されるエネルギーと重なります。要するに、古代の日本では、ムギ、ヒエ、アワ、キビ、ソバ……さまざまな穀物のなかでも、とりわけコメが「氣の高い作物」と見なされていたのでしょう。

丹波の地ではコメに籠ったエネルギー、つまり生命力がことのほか尊ばれ、それが神社の名称につながったのかもしれません。

こうしたコメに籠められたエネルギーは、古来、稲霊(いなだま)と呼ばれてきました。

前述の石毛直道さんによると、「稲粒に霊力が宿る」という信仰は広くアジアの国々に浸透していた観念だといいます。

こと日本列島では、それが強く共有されていたのでしょう。籠神社が元伊勢と呼ばれていたように、天皇家が儀式として取り入れる以前から開拓民の間で共有されてきた感覚であったと思われます。

「古代における天皇は、神聖王としての性格をもち、神道の最高の司祭としての役割をになっていた。

天皇が交代したさい、あたらしく即位した天皇が最初に挙行する宮廷儀礼としてのイネの収穫祭は『大嘗祭(だいじょうさい、おおにえのまつり)』とよばれる。それは、天皇に神聖な力を付加する不滅の霊力を、あたらしい天皇に移し替える儀礼である。

死亡や老齢のために交代せざるをえなかった前代の天皇のもとで、霊力は衰弱している。そこで、最初の収穫祭のとき、あたらしい天皇は、その年あたらしく収穫された米を食べ、あたらしい米でつくった酒を飲む。

そのことによって、稲霊という米の穀霊のもつ力が天皇に宿り、神聖王としての霊力が強化されるとしたのであろう」(注3)

天皇自身がシャーマンであり、神主であったわけですから、実際に霊力に秀でていなければリーダーにはなれません。

そもそも、アニミズムの世界の住人だった縄文人にとって、種に霊力を感じとることなど、なんら不思議なことではなかったでしょう。現代に生きるわれわれにとって、そこは異次元なのです。コメを栄養素のみでとらえる発想から、まず離れなければなりません。

ピンと来ない人もいるかもしれないので、以下、エネルギーの話から少し視点を変えてみましょう。

「コメ/天皇」の背後にあるもの

(つづく)

注1 籠神社公式サイト「御祭神・御由緒」を参照。
注2 山口佳紀『暮らしのことば・語源辞典』(講談社)
注3 石毛直道『日本の食文化史〜旧石器時代から現代まで』(岩波書店)
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プロフィール

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長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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