5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第4章では、日本の食文化のベースになったコメ(米)との関わりについて、神話と古代史を行き来しながら掘り起こします。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

8SHINTO FOOD(米・水・塩)の成立

2019年11月18日

先ほど「コムギよりもコメのほうが必須アミノ酸のバランスに優れていた」といいましたが、その背後には風土の違いがあります。

それぞれの風土を代表する作物としてコメがあり、ヒエやソバがあり、オオムギ、コムギ、トウモロコシがあったわけです。

こうした食べ物と風土の関わりについて、管理栄養士の幕内秀夫さんが次のような指摘をしています。

「人が食べるものは、基本的には『動物』か『植物』のどちらかです。

ご飯は植物ですし、野菜や果物も言うまでもなく植物。これに対して、肉やチーズなどの乳製品が動物ということになりますが、植物が育たない地域が食を動物性に頼るのは当たり前です。

要するに、生活するのに厳しい環境ほど動物性食品になるのです」(注1)

肉食と菜食のどちらが優れているかという話ではなく、そこには風土という大前提があったということでしょう。

日本列島より高緯度にあるヨーロッパでは、温帯で育つコメではなく、寒冷な気候でも育つコムギを栽培してきましたが、それでは多くの人口が賄えず、牧畜(肉食)を併用させていました。

緯度と平均気温

事実として、植物(コムギ)の持つエネルギーだけでは生存が保てなかったため、肉食が必要だったわけです。

一方、日本列島ではコメという作物のエネルギーが高かったため、それで十分に人口が養っていけた、だからこそ、聖なる食として大事にされ、食文化の柱=主食になっていったのでしょう。

ここでいうエネルギーは、カロリーや栄養素だけでは括れない、それらも含めた食べ物の生命力のようなものです。

生命力が高いかどうか? それを決めるのは食べ物自体ではなく、それを生み出す風土であり、空間です。幕内さんが語っているように、まさに「風土はフード(FOOD)」なのです。

現代に生きるわれわれは、食べ物の評価を栄養素や収穫量で測ろうとしますが、古代人には古代人の価値尺度があり、そのモノサシのなかで、コメは「聖なる食」と尊ばれてきたはずです。

ここまでの話をいったん整理してみましょう。

幕内さんにインタビューをした際、「日本という国の風土を成り立たせてきたものは何だと思いますか?」と尋ねたところ、しばし熟考されたのち、「水と塩ですよ」と答えられました。

「この二つが安定的に満たせる国は、そうはありません。四方が海に囲まれている日本は塩が採れ、水は水害が起きるほど豊富です。たまに干ばつがあったとしても、飲用に耐えうる水がこれだけ手に入るのは稀有なことです。

また、田に水を張ると上から下へ流れていきますから、畑作と違って、人と人のつながりがないと成り立ちません。それがいろいろな意味で日本人の性格形成に影響を与えてきたのでしょう」(注2)

幕内さんは水田を「世界最高の食糧生産システム」といい、「先人たちが水田で米をつくろうとしたこと、ここに水利、土木、天文など英知を結集していくなかで歴史が育まれてきた」と語られました。

コメの背後には豊富な水があり、天然の漁場であった海は塩をつくり出す生産地としても機能していました。

このようなきわめて恵まれた環境のなかで聖なるコメは育まれ、日本人の生き方、考え方の核になっていったのです。

豊かな水が森を生み、植物中心の食文化が成り立ち、そのなかで水稲耕作が発展し、ここに海の恵みである塩が加わることで生命を養う基礎ができあがります。神棚のお供えの基本が「米・水・塩」である理由も、それが日本人にとって生命の糧だったからでしょう。

外国人に「日本食とは何か?」と問われたら、この3つをまず挙げ、「SHINTO FOOD」とでも呼べばいいかもしれません。

(つづく)

注1 幕内秀夫『日本人のための病気にならない食べ方』(フォレスト出版)
注2 幕内秀夫インタビュー(インターネット「Bio&Anthropos」所収)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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