5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第4章では、日本の食文化のベースになったコメ(米)との関わりについて、神話と古代史を行き来しながら掘り起こします。月・木曜日の更新になりますのでぜひご覧になってください。

9コラム/稲妻と生命エネルギー

2019年11月21日

コメが日本人の聖なる食となった背景には、さまざまな自然のエネルギーが関わっていました。

その象徴のひとつとして神鳴り、つまりは雷が挙げられます。

雷は稲妻とも呼ばれてきましたが、ここに稲という語が出てきます。一般には、秋口に稲妻の多い年は米の豊作につながることから、稲の妻(配偶者=欠かせないもの)という言葉が生まれたようです。

でも、なぜ稲妻が豊作につながるのでしょうか?

ハッキリわかっていないところもありますが、雷のもとになるのは雲を構成している水滴の粒がこすれあって生じる静電気で、雲のなかに一定量たまると、やがて地上に向かって解き放たれます。

この放電作用が雷になりますが、ここでマジックが起こり、放電の影響で大気中の窒素と酸素が結びつきます。それが雨と一緒になって土壌に溶け込むことで、作物の肥料になるとされているのです。

こうした大気中の窒素から肥料のもとになる物質(窒素酸化物)がつくりだされる現象は「窒素固定」と呼ばれています。

空気から栄養がつくられるわけですから、人間目線では無から有を生み出すマジックそのものでしょう。

雷は世界のあちこちで見られますが、日本列島のようにその先に水田がある舞台設定は、植物の生育に最高の場と言えます。一面に広がる水田が、窒素固定を起こす装置になっていたのです。

これに関連してもうひとつ面白いのは、細胞のなかでもたえず放電作用=雷が起こっているという点です。

その舞台となるのは、細胞内のミトコンドリアです。

ミトコンドリアの研究者である太田成男さんは、ミトコンドリアが水素や電子を生み出しながら活動エネルギーを生産していくプロセスは、「宇宙からみた雷とそっくり」と語っています。

「ミトコンドリアでも局所的に電子がたまると放電(電子の放出)がおき、活性酸素となるのです。ほんとうにソックリです」(注1)

そもそも稲妻は、生命誕生の重要なキーとして知られています。

いまから38億年前。雲間から絶え間なく発生する雷の電気エネルギーが大気中の水、メタン、アンモニアなどと反応し、生命に必要なアミノ酸や糖類がつくられたと考えられているからです。

ミトコンドリアの場合、エネルギー産生によって生じた活性酸素は、蓄積されると細胞自身を傷つけ、酸化させます。

それは原子力が生じる際の放射性廃棄物のようなものですが、細胞は自らを守るため、酵素の力で活性酸素を絶えず除染しています。それは抗酸化と呼ばれていますが、細胞内の放電で生み出されるエネルギーがいかに強大か、それだけでも想像できるでしょう。

稲もまた、雷という電子エネルギーによって生命力を倍加させ、聖なるコメとしての価値を高めてきたのかもしれません。

なお、稲妻の放電の際に生じる窒素固定は、次章でお伝えするように、大豆に共生している根粒菌が行っていることでも知られます。

大豆は菌の力を借りて、大気中から窒素を取り入れているのです。

最近では、腸内細菌のなかにもこうした菌が存在し、糖質をアミノ酸に変えることがわかってきました。

これは荒唐無稽な話ではなく、パプアニューギニアの高地民がタロイモだけで筋骨隆々の体格が維持できるのは、腸内に窒素固定する菌が共生しているためだと言われています(注2)。

同様にタンパク質をあまりとらなくてもマッチョな人がいますが、腸内窒素固定ができているのかもしれません。

生命の世界は、マジックの連続、さまざまな化学反応が複合することで無限の力が発揮されていきます。

まさに雷(電気)は神成り……。

(おわり)

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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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