5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第5章では、前章の主役であった「コメ」に引き続き、食文化のもうひとつの柱である「大豆」に焦点を当てていきます。
大豆という種の向こう側にあるのは《発酵》の世界。日本特有の大豆系の発酵文化を浮き彫りにし、欧米の肉の文化と対比させていきます。

1人は「乳酸発酵」によって守られてきた

2019年11月25日

米の次はいよいよ大豆です。本題に入る前に、まずマクロからミクロの世界へ視線を転じてみましょう。

最初に取り上げたいのは、腸内細菌の話です。

この分野のパイオニアである光岡知足さんは、研究者になったばかりの1950年代初頭、ある重要な発見に出くわします。考案したばかりの培養法で自らの便を調べたところ、赤ちゃんの腸内にしか棲息しないとされていた菌が数多く観察できたのです。

その菌こそ、のちに「善玉菌」と呼ばれるビフィズス菌でした。

人の健康に寄与する菌を善玉菌と呼んだのは光岡さんが最初ですが、それはこの菌のちょっと変わった性質によります。

ビフィズス菌は、乳酸桿菌、腸球菌とともに乳酸菌の仲間に分類され、人の腸内にとりわけ多く生息することがわかっています。ほかの乳酸菌と具体的にどこが違っているのでしょうか?

「(どの菌も)乳酸を出すという点は共通していますが、腸球菌は乳酸のみを、乳酸桿菌は乳酸と炭酸ガスを、ビフィズス菌は乳酸と酢酸を産生するという違いがあります。

料理に使う食物酢を思い浮かべるとわかるように、酢酸には乳酸を上回る強力な殺菌作用があります。つまり、同じ乳酸菌のなかでも最も殺菌力が強いのがビフィズス菌なのです」(注1)

乳酸菌の種類

これだけの殺菌力を持つ菌が人の腸内で共生しているのです。

まず驚かされるのは、こうした優れた殺菌力が赤ちゃんの発育を助けているという点でしょう。

赤ちゃんが飲む母乳には糖(乳糖)がたっぷり含まれますが、ビフィズス菌はこの糖をエサにして一気に繁殖し、一時は腸内の9割以上がビフィズス菌で占められるようになります。

この大勢力となったビフィズス菌が赤ちゃんの腸内のpH(水素イオン指数)を弱酸性に保ち、有害な菌の繁殖を防いでいるのです。

乳幼児とビフィズス菌の関わり

ヒトは独り立ちするまでに時間がかかり、その過程でゆっくりと脳を発達させ、社会性を身につけていきますが、その成長プロセスの初期段階をビフィズス菌が支えてくれているのでしょう。

ビフィズス菌の割合は離乳を機に減っていき、全体の2割程度になりますが、ほかの無数の菌たちと共生し、全体でバランスを保ちながら、生涯にわたって人の健康に寄与しつづけます。

生物としてのヒトはこうした形で菌と独自契約し、保護してもらうことで、ここまで進化してきたのです。

腸内発酵のしくみ

(つづく)

注1 光岡知足『大切なことはすべて腸内細菌から学んできた〜人生を発酵させる生き方の哲学』(ハンカチーフ・ブックス)。記事中の図は同書をもとに作成。
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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