5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
第5章では、前章の主役であった「コメ」に引き続き、食文化のもうひとつの柱である「大豆」に焦点を当てていきます。
大豆という種の向こう側にあるのは《発酵》の世界。日本特有の大豆系の発酵文化を浮き彫りにし、欧米の肉の文化と対比させていきます。

2植物を発酵させてきた日本列島

2019年11月25日

糖を分解して増殖する菌は、ビフィズス菌(乳酸菌)のほかにも、酵母菌、麹菌、納豆菌など自然界にはたくさんいます。

彼らにすればエサを食べて、ただ分裂しているだけなのですが、生化学の分野では人の健康に寄与する菌の分解反応は「発酵」と呼ばれています。嫌気性といって、酸素のない環境下で進行する特徴があり、よく知られているように、様々な発酵食品を生み出してきました。

たとえば、ヨーロッパや中央アジア、インド、アフリカなどでは乳酸発酵のしくみをミルクに応用し、ミルクに含まれる糖(乳糖)を菌が分解することでヨーグルトのような発酵乳やチーズ、バターを生み出し、生きる糧としてきました。

ミルクは、飲み物としてよりも、じつは発酵食品として利用されてきた歴史のほうがずっと長いのです。

「乳は栄養面において理想的な食品であるが、生乳はすぐに変質してしまう。そこで、さまざまな乳製品に加工し、保存食品かすることによって、搾乳の困難な季節の食料にする。牧畜民は乳を飲むというよりは、『乳を食べる』人びとである」(注1)

これに対して、牧畜を行ってこなかった日本列島では、米と大豆が発酵に利用されてきました。

ここで活躍した菌の一番手が麹菌です。

麹菌は、正確にはカビの仲間です。生物学ではカビやキノコは菌類に分類され、同じ微生物でも細菌とは異なり、細胞の一つ一つが糸状につらなって、全体で一つのコロニーを形成しています。

この糸(菌糸)の先端から飛び散った胞子が食べ物に付着することで生まれるのが、カビと呼ばれます(注2)。

カビのなかには有害なものももちろんありますが、胞子が米に付着すると糖が分解され、麹がつくられます。ミルクが乳酸菌の力でヨーグルトになるように、米はカビの力によって麹に変わるわけです。

醤油や味噌をつくるには、この麹を茹でた大豆に混ぜ、発酵させるプロセスが必要になります。そこには乳酸菌や酵母菌も関わり、菌の相互作用で独自のうま味や酸味が生み出されます。

こうした米や大豆を使った発酵は、ミルクを使った発酵を動物性とした場合、植物性と呼んでいいかもしれません。

日本列島は、植物性発酵によって菌との共生を育んできた、世界的にはメッカと呼べるような場所です。

その背景には、西日本から中国南部、東南アジアにかけて広がっていた照葉樹林の風土が影響したと考えられています。

(つづく)

注1 石毛直道『日本の食文化史~旧石器時代から現代まで』(岩波書店)
注2 本作では一般的な呼称として、細菌も菌類であるカビもまとめて菌と呼びます。
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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