5食べ物の発酵から腸内の発酵へ
2019年11月25日
ここまで食べ物の発酵について見てきましたが、食べ物が運ばれるお腹(腸)でもたえず発酵は起こっています。
腸内の発酵の特徴は、条件次第で腐敗に転じてしまう点でしょう。
発酵と腐敗は紙一重の現象であり、菌たちによる分解現象という点では大きな変わりはありません。生物学的にどちらがいいと言えるものではありませんが、人が快適に生きていくには腸内環境が発酵に向かうよう菌たちとつきあっていく必要があります。
そのために何をどう食べたらいいのでしょうか?
前述した光岡知足さんは、腸内細菌学の生みの親として乳酸菌による発酵作用の重要性を見出しました。ただ、ヨーグルトを食べることを手放しですすめてきたわけではありません。
ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌は「プロバイオティクス」と呼ばれ、「腸内環境を改善し、健康に寄与する生きた菌」を意味しますが、「生きた菌」にだけこだわる必要はないからです。
光岡さんが研究を通じて確認してきたのは、
「生きた菌・死んだ菌に関わりなく、菌の体の成分(菌体成分)が腸内の免疫活性に作用する」(注1)
ということです。死んだ菌でも構わないということは、「加熱調理した発酵食品でも腸への作用は変わらない」ことを意味します。だとすれば、味噌汁と腸の相性のよさも見えてくるでしょう。味噌に含まれる乳酸菌も、腸内の免疫活性をうながす可能性があるからです。
菌体成分という点にフォーカスすれば、一緒に取り込まれる酵母菌や麹菌も免疫活性に一役買っているかもしれません。
食べ物の発酵の面白いところは、こうした免疫活性だけでなく、腸内細菌の増殖につながっていく点にあります。
生きた菌にこだわる必要がない以上、「生きた菌が腸に届いて増える」と言いたいわけではありません。
食べ物が発酵するということは、菌の働きで食べ物に含まれる糖が分解されることを意味しますが、そのなかには小腸から吸収されず、大腸に棲んでいる腸内細菌のエサになるものもあります。
そうした糖の代表がオリゴ糖や食物繊維でしょう。腸内細菌はこれらのエサによって増えていくのです。
食物繊維も糖の仲間であり、かつては未消化のままに大腸に運ばれ、そのまま排泄されると考えられてきました。
しかし、最近になって腸内細菌が分解し、エサにすることがわかってきました。こちらは、「生きた菌」を意味するプロバイオティクスに対して、「プレバイオティクス」と呼ばれています。
こうした菌の分解によって糖から酪酸など脂質の仲間(短鎖脂肪酸)が生成され、大腸の粘膜を構成する上皮細胞のエネルギー源になるといいます(注2)。その結果、免疫の過剰反応を抑え、アレルギーや腸の炎症性疾患を改善する働きがあることもわかってきました。
食べ物は咀嚼によって分解され、胃でさらに分解されて小腸に運ばれますが、大腸にいる腸内細菌もこの分解作業を手伝っているのです。その意味では、消化管の一部と言ってもいいかもしれません。
そもそも、食べ物を発酵させれば、口にする前の段階で分解が進むことになります。消化にいいのはもちろん、分解の過程でビタミンなどが新たに生成されるメリットも得られます。
食べる前に分解されるのか、食べてから分解されるのか?
どちらにせよ菌たちの力で植物が解体され、そこに含まれる有効成分が取り込まれやすくなります。菌という分解者によって植物のポテンシャルが引き出されることが、発酵の意味と言えるかもしれません。
食べ物の発酵が、食べ物を取り込んだ体内にも連鎖していけば、食べる側のポテンシャル=健康状態も高まっていくのです。
腸内フローラと食べ物の関係
(つづく)
プロフィール
長沼敬憲 Takanori Naganuma
作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)