5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。
長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
いよいよ最終章である第6章に突入。
長い歴史を経て、多くの智恵を身につけてきた私たち日本人。
発酵する生き方とは何か?
忘れていたことを思い出し、自らが蘇生するすべを探っていきます。
1「発酵」と「腐敗」を隔てるもの
2019年12月26日
縄文からはじまり、コメと大豆の出会いにいたる日本列島のフードジャーニーのアウトラインをたどることができました。
生きて食べてここまで歩き続けてきた道のりは固有の文化を紡ぎ出してきましたが、それはたえず変容します。
これからこの風土のなかでどう生き、新しい生き方のかたち=文化を紡いでいったらいいでしょうか?
ここで改めて発酵と腐敗の関係に目を向けてみましょう。
科学の世界ではコンタミネーションといって、培養の際に雑菌が混じることが戒められてきましたが、自然界ではそれが普通です。
雑菌が混じると純粋培養にならず、時として腐敗が生じます。
食べ物に当てはめた場合、「菌が繁殖して腐る」という現象が生じますが、腐って困るのは人間のほうです。菌との共生が成り立たなくなり、健康を害することにつながるでしょう。
それは、食べてお腹を壊すということにとどまりません。
腐敗は食べ物だけでなく、現象としてはその食べ物が運ばれる腸内でもつねに起きています。それを腸内腐敗と呼んだ場合、大腸のなかは生ゴミがたまって異臭を放つ状況になります。
一般的には、菌たちが食べ物のタンパク質を分解することでアンモニア、アミン、インドール、スカトールなどの物質が分泌され、それが異臭→腐敗を起こすというプロセスで説明されています。
便が臭うのは、腸内腐敗の結果であるのです。
そのため、タンパク質を分解する菌は悪玉菌などと呼ばれるわけですが、「肉を食べると腐敗を起こす」とまではストレートに言えないところもあります。糖にしても発酵の原料にはなりますが、その一方で血糖を上げ、代謝を狂わせる原因にもなるでしょう。
一つの成分をとって良い悪いとは、簡単に決めつけられません。
実際に食事をするときは、さまざまな成分が渾然一体となって取り込まれますから、腸内でも発酵と腐敗は紙一重の現象です。ただ、現実には腐敗が進んで、体調に悪影響を及ぼすこともあります。
紙一重を隔てる境界は、いったいどこにひそんでいるのでしょうか?
(つづく)
プロフィール
長沼敬憲 Takanori Naganuma
作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)