5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。
長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
いよいよ最終章である第6章に突入。
長い歴史を経て、多くの智恵を身につけてきた私たち日本人。
発酵する生き方とは何か?
忘れていたことを思い出し、自らが蘇生するすべを探っていきます。

2解剖学者・三木成夫が見た「生命」と「リズム」

2019年12月26日

大事なのは植物、動物、そして菌たちの関係です。

解剖学者の三木成夫さんは、生きることを食と性の連鎖としてとらえ、それを理想的に体現している存在は植物であると語りました。

「植物には『独立栄養』すなわち『光合成』の能力があるので、動物のように人さまのものを横取りする必要がない。
 いいかえれば動物がその日その日の糧を求めて、草食・肉食の別なく、あちこちさまようように、自分のからだを移動させる必要がまったくない。このため植物のからだには『感覚・運動』にたずさわる器官が、もう最初から完全に欠如しているのです」(注1)

三木さんは、解剖学的な見地から運動・感覚にたずさわる器官、つまり手足や脳、目や耳の感覚器官などを「体壁系」と呼び、身体の内側にある消化管などの働き=「内臓系」と対比しています。

生命活動の根幹となる食と性は、内臓系の管轄になります。「生命の主人公は、あくまでも食と性を営む内臓系で、感覚と運動にたずさわる体壁系は、文字通り手足に過ぎない」(同)のです。

内臓系は植物由来、体壁系は動物由来?

神経系の働きと重ねた場合、体壁系は体性神経(運動神経・知覚神経)、内臓系は自律神経(交感神経・副交感神経)と重なるでしょう。

植物は土壌の微生物の力を借りて、いわば内臓系のみでこの世界とつながっている生き物ということになります。

一方、光合成のできない動物にとって、食べることは行動することであり、そこに体壁系の器官が必要となります。行動することで得た食べ物を腸内細菌と協同しながら分解し、エネルギーに変えているのです。

エサが食べられないと不安になり、ストレスが生じますが、それは内臓系の働きに影響します。胃が痛んだり、腸のぜん動が滞って下痢や便秘が起きたり、お腹の調子が悪くなります、

つまり、腸とこころはつながっている。お腹が荒れれば、心も荒れます。腸内の腐敗はこころの腐敗とも連動していることになります。

動物・植物・微生物の関わりが見えてきましたと思いますが、では、何をもって腐敗と発酵は分かれるのでしょうか?

この紙一重を決定づけるものとして、光岡知足さんは腸内細菌研究の初期段階から「食事の内容だけでなく、強度のストレスによっても悪玉菌が繁殖し、腐敗が進む」ことを指摘していました(注2)。

とはいえ、ストレスという言葉は少々抽象的です。

ある人にとって平気なことが、ある人にとってはつらいといった心因的な側面が強いため、別の言葉で言い換えてみましょう。

前述の三木さんは、それを「リズムの乱れ」と呼んでいました。

生命には固有のリズムがあり、宇宙のリズム、地球のリズム、日本列島の四季のリズム、一日のリズムといった具合に、マクロからミクロまでいくつもの周期が複合しながら変化を繰り返します(注3)。

それらを自然のリズムと呼ぶならば、その一部であるわれわれの身体も、代謝のリズム、睡眠のリズム、ホルモン分泌のリズムなどなど、さまざまなリズムに支配されていることがわかります。

こうした生体リズムと自然のリズムは、いずれも自然の営みである以上、本来は一つであるはずです。

しかし、体壁系を働かせている動物は、行動してエサを得ることが宿命づけられているがゆえに目先のことに振り回され、大地に根を張った植物のように悠然とは生きられません。

ましてヒトは、体壁系の先端にある脳を特異に発達させることで、内在していた生命のリズム=内臓系のリズムを見失い、エゴのおもむくまま、地球上で勝手に暴走するようになりました。

要するに、眠くなったら眠れるわけでも、食べたい時に食べられるわけでもない……こうしたリズムの乱れた生き方こそ、ストレスと呼ばれるものの元凶ではないかということです。

好きだと言えないことに長い時間を費やしているのだとしたら、なおさらストレス=リズムの乱れは増すでしょう。

そのダメージを真っ先に受けるのが内臓(腸)です。もちろん、腸に棲んでいる菌たちも影響を受けるでしょう。腸内環境が腐敗に傾く背景も、リズムの乱れが関わっているはずなのです。

(つづく)

注1 三木成夫『内臓とこころ』(河出書房新社)
注2 光岡知足『腸内細菌の話』(岩波書店)
注3 長沼敬憲『最新科学でわかった! 最強の24時間〜120%のパフォーマンスを引き出す時間の使い方』(ダイヤモンド社)
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プロフィール

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長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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