5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。
長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
いよいよ最終章である第6章に突入。
長い歴史を経て、多くの智恵を身につけてきた私たち日本人。
発酵する生き方とは何か?
忘れていたことを思い出し、自らが蘇生するすべを探っていきます。

3「腸のリズム」が生き方を左右する

2019年12月26日

周期的に繰り返されるリズムは、時間の概念とも重なり合っています。

有性生殖する生物はその周期のなかで成長し、老い、そして死んでいくわけですが、腸内細菌はこの時間の外にいます。

なかなかイメージしにくいかもしれませんが、細胞分裂を繰り返すだけの菌たちに、死はありません。

人が思い描く生と死とは違うところで存在しているのです。

菌たちはリズムを刻むための体内時計を持っていませんが、宿主のリズムに同調し、反応することである菌が増殖したり、ほかの菌の繁殖を抑えられたり、まるで合わせ鏡のように腸内環境を変化させます。

腸内環境は、同じ種類の菌が集まってお花畑(flora)のようなコロニーを形成するため、「腸内フローラ」と呼ばれています。

たとえば、飛行機で外国に移動すると生体リズムが狂い、時差ボケになりますが、それは腸内フローラに反映されます。夜勤が続いて生活が不規則になってもフローラは変化するでしょう(注1)。

程度の差はありますが、人と言い争ったり、イライラしたりするだけでも腸内フローラは影響を受けています。

つまり、外部とのコミュニケーション不良がストレスであるとしたら、そのストレスが腸内フローラに映し出されます。腸内フローラの乱れ、人間関係の乱れ、地域や国レベルでの乱れ、生態系の乱れ……それぞれバラバラのことのように見えますが、構造は同じなのです。

複合するリズムと生命体

実際、それらの変化は影響しあい、無数のリズムが重なり合うことで、わたしという存在の生き方を規定しています。

もちろん、そこには食べ物も関わりあってきます。

ストレスがたまってジャンクフードをガツガツ食べたり、甘いものが無性に欲しくなったりするのは、食べ物とメンタルの関わりを象徴しています。腸内腐敗が進むのも、単に食べ物の問題というより、そうしたシチュエーションに原因があるのでしょう。

甘いものの摂りすぎが体に悪いと単純に言えるわけでもないのです。

コミュニケーションというと、通常、人と人との対話や交流を指しますが、身体のなかでも食べ物の栄養、菌やウイルスなど、さまざまな異物とのコミュニケーションが行われています。

その最前線にあたるのが皮膚や腸の粘膜であり、そこでは免疫細胞(白血球)によって身体に必要なものかどうかが判断され、菌やウイルスは排除され、腸内では食べ物の栄養素が取り込まれます。

また、この食べ物の栄養が運ばれていく細胞にも膜(細胞膜)があり、栄養を取り込み、老廃物を排出する出入り口になっています。

さらに言えば、ミトコンドリアにも二重の膜があり、このうちの内膜でエネルギーのもとになるATP(アデノシン三リン酸)がつくられます。膜という内と外の境界にあたる場所は、コミュニケーションが活発に行われる、身体で最もホットなゾーンなのです。

免疫の分野では、「白血球が自己と非自己を識別し、身体に必要なものを取り込んでいる」と考えています。つまり、体内のコミュニケーション活動を担っているのが免疫ということでしょう。

自己とは、哲学的な概念のようにイメージするかもしれませんが、ここでは食べ物に含まれる栄養素のことを指しています。

もともと自分ではないものが消化によって分解され、自分の身体の一部、つまり自己に作り替えられるからです。

非自己については、ウイルスや病原菌、分解できない食べ物のカスなど、こうした作り替えができないものを指します。

こちらは白血球によって排除されるか、大腸に運ばれて便となって排泄されますが、消化できなかった食べカス(食物繊維)を分解できる腸内細菌もいるため、自己として取り込まれるものもあります。

そもそも、腸内細菌も非自己のはずですが、彼らは有害性があっても排除されず、腸内で共生しています。

こうしたすべてを排除するわけではない白血球のファジーな性質は、「免疫寛容」と呼ばれています。僕たちの身体は、寛容の精神によって異物とのコミュニケーションが保たれているのです。

免疫と自己の境界

(つづく)

注1 田原優『体を整えるすごい時間割』(大和書房)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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