5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。
長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
いよいよ最終章である第6章に突入。
長い歴史を経て、多くの智恵を身につけてきた私たち日本人。
発酵する生き方とは何か?
忘れていたことを思い出し、自らが蘇生するすべを探っていきます。

4「創発」を生み出す免疫のしくみ

2019年12月26日

免疫学者の多田富雄さんは、自己と非自己の関係を次のようにとらえます。

「『自己』は(中略)刻々と変貌している。昨日まで『自己』であったものが、今日は『非自己』になり得る。

それぞれの時点では『自己』の同一性というものが存在することを認めたとしても、本当に連続性を持った『自己』というものが存在するのであろうか。(中略)

反応する『自己』、認識する『自己』、認識される『自己』、寛容になった『自己』ーーというように、『自己』は免疫系の行動様式によって規定される。そうすると、『自己』というのは、『自己』の行為そのものであって、『自己』という固定したものではないことになる」(注1)

白血球による自己と非自己の選別は、この寛容の精神が仇となって、間違いを犯すことも珍しくありません。

アレルギーが起こるのは、本来は自己であるはずの食べ物の栄養を白血球が異物(非自己)だと見誤り、過剰反応するからです。白血球が自分自身の細胞を攻撃してしまう自己免疫疾患のような病気もあります。

こうした免疫の働きを、人の社会生活に重ね合わせてみましょう。

他者(非自己)を受け入れるか受け入れないか、受け入れるにしてもどの程度受け入れるか……われわれもたえず距離感をはかりながらコミュニケーションし、判断しているのがわかります。

そこで求められるのも、まさに寛容の精神でしょう。

身体の内部にさまざまな膜があるように、自己と他者の間にも見えない膜があり、それは間合いと呼ばれています。この間合いを誤ると人間関係がストレスになり、ときに争いにも発展します。

これを社会に当てはめた場合、コミュニティとコミュニティが接する境界こそが膜にあたることになります。

文化ごと、国や地域ごとに膜が張られ、それは紛争の最前線になりえると同時に、コミュニケーションが活性化し、物品の流通が生まれる、クリエイティブな最前線でもあるでしょう。

すべては膜でつながっている

膜、間合い、境界……これらはすべてストレスの発生する緊張感の高い場ですが、それゆえ刺激にも満ちています。

膜との接し方一つで、人は快を感じたり不快さ感じたり、健康になったり病気になったり、発酵したり腐敗したり……その繰り返しのなかで生物は進化し、人は成長しながら生きているのです。

それは創発(emergence)と呼ばれ、組織マネージメントのキーワードとして語られることが多いですが、もとは生物学の用語の一つです。生物そのものが創発によって成り立っていることをふまえれば、組織論の根幹は身体にあると言ってもいいでしょう。

身体こそ創発の舞台であり、クリエイティブの源泉なのです。

(つづく)

注1 多田富雄『免疫の意味論』(河出書房新社)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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