5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。
長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
いよいよ最終章である第6章に突入。
長い歴史を経て、多くの智恵を身につけてきた私たち日本人。
発酵する生き方とは何か?
忘れていたことを思い出し、自らが蘇生するすべを探っていきます。

5社会はひとつの「生命体」である

2019年12月26日

ヒトはこのように多層的で、壮大なスケールの世界に棲んでいます。この事実から、旅の意味について考えてみましょう。

生きることはコミュニケーションそのものですから、生きている限り外部の世界とふれあい、刺激を受けることになります。しかも、その刺激に対してたえず判断しなければなりません。

何を選ぶのか? どこに進むのか? だれとつきあうのか? ……判断とその結果の繰り返しは、快・不快という形で身体に現れます。どんなに正しい判断だと思っても、身体が不快に感じていたらその不快さが反映され、放置すれば体調不良、病気へとつながるでしょう。

もちろん、体が病めば心も一緒に病んでいきます。体だけ、心だけが勝手に動いているわけではないのです。

こうした身体の反応は、良きにつけ悪しきにつけ、その総和である社会にも反映され、集合無意識として国のあり方を決めたり、その土地の文化的な特長を生み出したりもするでしょう。

森羅万象、すべての層がリンクしている現実をふまえ、栗本慎一郎さんは「社会は生命体である」と語りました(注1)。

その言葉の通り、社会を生き物の活動の総和としてとらえる感覚があれば、その生き物によって営まれる歴史も、経済も、政治も、その本質がよりとらえやすくなっていくはずです。

そうした生き物の総和、生命体としての地球に暮らすわれわれは、植物ではなく動物に属します。内臓系と体壁系を併せ持った存在ですから、一つの環境のなかでじっととどまることはできません。

動くことは本能であり、おそらくそこに旅の意味もあるのでしょう。

この世界を知るためにわれわれは空間を移動し、皮膚感覚で外部刺激をキャッチし、まさに生を感じます。

それは自己と他者を隔てる境界へとアクセスし、異物との接触を通じて生命を活性化させることにつながるでしょう。

旅は創発を生み出す刺激に満ちていますが、身体のなかでも同じことが起きていることも忘れるべきではありません。

ヒトが五感によってこの世界をキャッチし、行動につなげるように、まず細胞に備わった免疫のレセプターが刺激に反応し、異物を認識することで恒常性が保たれます。

すべては外部刺激への反応から始まりますが、動きまわる分、生物の活動としてはシンプルと言えず、行動すること、コミュニケーションをとることが悩みや苦しみを生む原因にもつながります。

まして生き物のなかで最も複雑な脳を持つヒトは、つねに迷います。迷って過ちを起こし、他者を傷つけます。

しかし、体壁系と内臓系、この二つを併せ持って生きている以上、どちらにも偏らず、バランスよく活用すること。それがヒトとしての生をまっとうすることにつながっていくはずです。

身体の機能に即して言えば、それは日常と非日常、この二つの視点から生をとらえることを意味するでしょう。

日常とはどう向き合えばいいでしょうか?

日常では食べることと寝ることが生の根幹にありますから、主役となるのはもちろん内臓系(腸)です。

日々コンディションを整え、内臓臓器の声なき声に耳を傾けるための静けさを、内に蔵すること。そこに価値判断のよりどころがありますが、それが生のすべてではありません。

体壁系を使って非日常へ飛び込むこともまた、動物としての本能を刺激し、生命を活性化させます。

こちらは静に対して動の世界です。

自己の生き方、日常や仕事のなかに静と動のバランスをどう反映させていけばいいか? 失敗を繰り返しながらコツをつかみ、偏りが整えられていったとき、生命は蘇生の方向に進んでいきます。

自己の内と外の距離感、間合いをつねに感じとること……求められるのは、この点に尽きるかもしれません。

経験値を積み、心地よい間合いがとれるようになっていくにつれ、生きることに喜びが感じられる瞬間は増えていきます。

(つづく)

注1 「栗本慎一郎インタビュー』(インターネット「Bio&Anthropos」
所収)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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