5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。
長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
いよいよ最終章である第6章に突入。
長い歴史を経て、多くの智恵を身につけてきた私たち日本人。
発酵する生き方とは何か?
忘れていたことを思い出し、自らが蘇生するすべを探っていきます。

6「発酵」と「呼吸」のはざまで

2019年12月26日

ここに、発酵と腐敗を重ね合わせてみましょう。

発酵も腐敗も菌が関与している分解作用だと言いましたが、発酵のほうが生の本質と言えるかもしれません。

そう感じるのは、細胞分裂を繰り返す菌たちは、じつは自らの細胞のなかでたえず発酵を行っているからです。糖を分解することから「解糖系」と呼ばれていますが、菌たちは食べ物を発酵させるのと同じ原理で取り込んだ栄養を分解し、活動エネルギーに変えているのです。

この解糖系の働きで分裂を続ける菌たちは、生そのものが発酵であり、蘇生どころか不死の存在だと述べました。

一方、こうした発酵だけではエネルギーが賄いきれない進化した細胞、つまりヒトの身体をつくっている細胞(真核細胞)は、ミトコンドリアという器官で栄養と酸素をエネルギーに変えています。

食べ物が介在する発酵に対して、こちらは呼吸が介在します。

食べて、息をする。われわれが当たり前に行っている生命活動は、まず食べることから始まり、ミトコンドリアの介入によって、有害だった酸素を処理する呼吸という機能が新たに備わりました。食べることで進化した生き物の一部が、やむなく呼吸を始めたのです。

解糖系とミトコンドリア

進化した生き物は呼吸に依存しています。呼吸なしには数分も生きていけませんが、呼吸は酸化と背中合わせです。

ミトコンドリアが生み出す膨大なエネルギーによって細胞は巨大化し、長い歳月を経てついにヒトへと進化しました。しかし、それは生命を無限の世界から有限の世界へ押し込めることを意味します。

酸化は老化であり、それは死につながります。死のない世界から、生と死が無限に繰り返される世界へ。この革命的な転換によって、仏教が問題にしている生老病死の世界が始まったのでしょう。

無限の世界とつながっている発酵という現象は、苦しみの多い有限の世界のなかで、生命を蘇生させる知恵として受け継がれていきました。目に見えない菌たちは、発酵と腐敗という2枚のカードを使い分けながらヒトの生死を操り、半ば神のように振舞っています。

腸内細菌は共生しながら、生老病死を超越しています。われわれとは違ったステージから生命の根源につながっています。

発酵は生命の本質

有限の世界に生きている以上、老化も死も免れません。ただ、その限られた時間のなかで、ヒトはより自由で快適な世界を求め、自らの生を蘇生させようと動きつづけてきました。

生命をどのようにして蘇らせていけばいいでしょうか? 発酵する世界へ、どのように向かえばいいでしょうか?

(つづく)

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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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