5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。
長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
いよいよ最終章である第6章に突入。
長い歴史を経て、多くの智恵を身につけてきた私たち日本人。
発酵する生き方とは何か?
忘れていたことを思い出し、自らが蘇生するすべを探っていきます。

7生命をいかに蘇らせるか

2019年12月26日

いろいろな視点からアプローチできると思いますが、ここではそのヒントを植物に備わった生命力に求めましょう。

植物の種には、自らの生命を守り、次世代に受け継がせていくため、さまざまな防御機能が張りめぐらされています。

この防御機能がとりわけ強力なのが大豆です。種の生命を守るという点では、コメを上回っているかもしれません。多少煮たくらいでは毒素が抜けない、とても扱いにくい面があるからです。

こうした防御機能の一つとして知られるのが、「プロテアーゼ・インヒビター」の働きでしょう。

プロテアーゼはタンパク質を分解する酵素にあたりますが、大豆にはこの働きを阻害する物質=インヒビターが多量に含まれます。

タンパク質の分解が阻害されるということは、消化が難しいということです。食用にするには、微生物の力を借りて豆を分解し、ブロックを解除する働きが必要になってきます。

お気づきかもしれませんが、それが発酵にあたります。

種の側からすれば、そうやって身を守っているわけですが、食べる側は消化不良の不快感を何度も経験し、そのなかで発酵の知恵と出会うことでインヒビターの解除に成功したのでしょう。

乳酸菌、麹菌、酵母菌……菌たちの力を借りて味噌や納豆に生まれ変わることで、大豆に内包された生命の扉が開かれます。強力なロックがかかっていた分、そのパワーは強力です。

他の豆よりも強力だったがゆえに、聖なる食であるコメのパートナーとしての地位を手に入れたのです。ごはんに味噌汁をいただくことは、生命力を取り戻す最初の一歩になるでしょう。

これまで生命力という言葉を何度となく用いてきましたが、生命は栄養成分のように認識はできません。

ただ、数ある栄養素を見渡していくと、その概念に近い成分は存在します。その代表が「ファイトケミカル」の名で総称される、ポリフェノールやフラボノイドなどの活性成分でしょう。

たとえば、植物の実が苦かったり渋みがあったり、特有の臭いがあったら、動物も虫も近づきません。色が青かったり、硬かったりしても、実が熟れていないので口にはしないでしょう。

ファイトケミカルはこうした味や臭い、色などを出すことによって、インヒビターとは違った形で植物の身を守ります。要は、この成分が豊富であればあるほど、植物の活性度=生命力は高いわけです。

植物にはこうした活性成分が無数に備わっており、その数は1万を超えるとも言われています。その働きはわからないことも多く、個々の成分の相互作用なども考えると可能性は無限大です。

医師の佐古田三郎さんは、自然治癒をうながす切り札として、このファイトケミカルの特性に注目しています。

「ファイトケミカルのなかには、外部の環境が変化し、ストレスがかかったときに誘導されるファイトアレキシンという物質が存在します。

植物にとってストレスのかかる状況というのは、紫外線であったり、病原菌やウイルス、昆虫であったり、寒さであったり……こうした安穏とは生きられない環境のなかでファイトアレキシンは生み出されるのです」(注1)

ポリフェノールやフラボノイドなど、代表的なファイトケミカルはファイトアレキシンに属しています。

それは、植物に備わった「火事場の底力」と言っていいでしょう。

科学的には抗酸化、抗炎症、抗ガン、抗菌などの作用にあたりますが、大事なことは、「ヒトは植物を食べることで植物の底力をいただき、自らの生命力を高めている」という点でしょう。

発酵させることで大豆のパワーを取り込むことも同様です。大豆という植物のポテンシャルを引き出す以上、発酵という働きを栄養の視点だけでとらえると本質が見えなくなってしまいます。

生命をいただくことで、自らの生命が充実するのです。それは比喩ではなく、実際にそうやって生きてきた証しと言えます。

「植物が3億5000年にわたって外敵と戦ってきた成果を、私たちは食事を通じて拝借しているんですよ。その成果をいただくには、植物をあまり甘やかさず、少々ストレスをかけたほうがいいのです」(同)

煮たり、干したり、発酵させたり……そうやってストレスをかけると、生で食べるよりもファイトアレキシンは活性化しやすくなる。つまり、生命力が高まり、それを食べた側の活力も養われる……。

日本人は、恵まれた風土のなかで、こうした植物の知恵を「ご飯と味噌汁」の組み合わせに凝縮させていきました。コメと大豆のコラボレーションの先には、栄養素の概念だけでは括り切れない、植物の生命の世界が広がっていることが見えてくるでしょう。

前述したように、生命はリズムによって成り立っています。

薬物治療に慣れている現代医学では軽視されがちですが、佐古田さんは臨床経験をふまえ、「食べる、寝る、呼吸する、光を浴びる……生命を蘇生させるカギは日常にある」(注2)と言います。

しっかり寝られているか、呼吸ができているか、光を浴びられているか……こうした問いのなかに、リズムは見え隠れします。それが十分にできていない状況下で病が発生するからです。

(つづく)

注1 佐古田三郎『佐古田式養生で120歳まで生きる する・しない健康法』(実業之日本社)
注2 「佐古田三郎インビュー」(インターネット「Bio&Anthropos」所収)
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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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