5年の歳月をかけて完成させた『フードジャーニー』。
長い旅の果てに日本列島にやってきた人たちが、何を食べ、どう生きてきたのか?
いよいよ最終章である第6章に突入。
長い歴史を経て、多くの智恵を身につけてきた私たち日本人。
発酵する生き方とは何か?
忘れていたことを思い出し、自らが蘇生するすべを探っていきます。

8エビデンスの向こう側にある世界へ

2019年12月26日

生きることに目的があるとするならば、それは生命を蘇生させ、喜びに変えていくことにあると言えます。

生命そのものは永遠不変であっても、その表現系である心と体は陰と陽、つまり、活性と不活性を繰り返します。

活性は活動、不活性は休息とも言い換えられますが、あまり不活性が続くと心が病んでいき、生命体として活力は減退します。闇に籠ってばかりいたら生の喜びは失われていくでしょう。

天岩戸が開かれ、太陽神が姿をあらわす日本の神話も、そのあたりの生の機微を表しています。光と闇が繰り返される世界だからこそ、闇に沈んでいく安らぎと光を浴びる喜び、その両端が体感できます。

大事なのは、光と闇を行き来すること。わかりやすく日常と非日常と呼んでもいいかもしれませんが、どちらかに居着いてしまうのではなく、二つの世界を行き来すること。

このうちの日常は衣食住で成り立っていますが、その根源にあるのはやはり食です。食べ物もまた生命であり、食べ物の生命のレベルは食べる側の生命のレベルに直接重なり合ってきます。

生きることは食べること。よく生きるにはよく食べること。われわれはいま、この意味を深く感じとる必要があります。

たとえば、日本人はなぜ肉をあまり食べてこなかったのか? 殺生を禁じた仏教の影響を挙げる人もいますが、コメと大豆、魚を柱にした食生活で十分に活力が得られたからでしょう。

それはいまの時代と比べたら「粗食」のように思われますが、実際にはその食事で現代人以上に元気に過ごせていた……つまり、現代人よりはるかに生命力が高かった可能性があります。

そのように言えるのは、現代の食生活には前述のファイトアレキシンを活性化させる要素があまりに少ないからです。

野菜にストレスをかけ、生命力を引き出そうという工夫より、効率化のほうが求められ、同じコメであっても、ニンジンであっても、ダイコンであっても、「栽培環境によって質(どれだけ底力が発揮されるか)が違ってくる」という事実が軽視されています。

農薬や化学肥料の使用に関しても同様です。安全性についてはさかんに議論されていますが、こうした植物の底力(生命力)を前提にしたら、評価の仕方はきっと違ってくるでしょう。

化学肥料に頼りすぎれば、土壌菌との共生が阻害されますが、そこで問題になるのは作物の生命力なのです。

もちろん、生命力の落ちてしまった野菜ばかりになった現代では、ベジタリアンで健康を保つのはむしろ大変だと言えます。

このあたりは成分分析するだけでは、なかなか見えてこない世界でしょう。まさに自分の感覚を頼りに、「どう食べ、どう生きるか」を一人一人が見つけていく必要があります。

数字やデータに慣れてきた人にとって、それは不確かで、あやふやなもののように感じられるかもしれません。

しかし、人類の長い歴史のなかでは、その感覚こそ大事にされてきたのです。

感覚を磨くこと。それをあやふやなものではなく、生きる物差しになりえるように研ぎ澄ませていくこと。

その大切さが実感できるようになってきたら、慎重にエビデンス(科学的根拠)の向こう側に足を踏み入れていくといいでしょう。

そこに広がっている「目には見えない、でも確かにあるもの」を生命と呼ぶのであれば、その時、私たちはようやく生命と向き合える切符を手に入れたことになるのかもしれません。

肉も野菜も含め、いや、それを食べている人、暮らしている環境も含め、失ったものの大きさがきっと見えてくるはずです。

(つづく)

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プロフィール

ポートフォリオ

長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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