世界を旅しながら、目の前に広がる景色とその背後にある神話世界を重ね合わせ、多くの作品を撮りつづけてきたカメラマンの井島健至さん。
2016年5月。これまで国内外の様々な国や地域を訪れてきた井島さんが向かった場所、それがスペインのサンティアゴ巡礼道でした。
聖ヤコブの遺骸が眠るというコンポステーラ(サンティアゴ・デ・コンポステーラ)へと向かう道は、ヨーロッパの各地から枝葉のように伸び、この数千年来、内なる神との邂逅を求める多くの人が歩き続けてきました。
人はなぜ旅をするのか? なぜ歩くのか? 2017年1月、逗子の「シネマアミーゴ」という小さな映画館に井島さんを招き、旅のスライドをたどりながらお話を聞きました。
羽黒修験道、中沢新一、ヴィパッサナー瞑想、南方熊楠……さまざまなエッセンスが重なり合った旅の体験は、アルケミストへの道そのもの。
内なる世界と外なる世界をつなげる、覚醒への旅路をお伝えしていきます。

長沼敬憲(ハンカチーフ・ブックス編集長)

1ヴィパッサナーからサンティアゴへ

2019年7月18日

――
まず、カメラマンになろうとしたきっかけからお聞かせいただけませんか。
井島
大学は写真と関係のない学部だったんですが、カメラマンの星野道夫さんの作品と出会って、神話と写真の世界のつながりを知って。その後、大学を中退してニューヨークで3年ほど学んだのち、2002年に独立しました。
――
独立して以降、どんなテーマで?
井島
2005年頃から、作品のテーマとして日本の神話と周辺の風景を撮り続けることがライフワークになっています。当時、仲間と一緒に創刊した「Soul switch」という雑誌のテーマが、「世界は音でできている」だったのですが、ここからスタートし、プロジェクトデザイナーとして活躍している友人の古田秘馬と「Primal Grabity」という写真と音楽のコラボレーションを展開したり、様々な活動を続けてきました。
――
女優の鶴田真由さんとも、「古事記」をテーマにした旅の本(『ニッポン西遊記 古事記編』)を作られていますよね。
井島
ええ。取材を通じて、神話の舞台である出雲、熊野、伊勢、高千穂、淡路島などを訪ねました。
――
そうした活動の延長にサンティアゴ巡礼があるわけですね。旅のきっかけは?
井島
書籍(『スペインサンティアゴ巡礼の道 聖地をめざす旅』)の企画で、担当の高森玲子さんに誘っていただいたんです。高森さんとは相川七瀬さんの本(『神結び 日本の聖地をめぐる旅』)などでご一緒していたので、ぜひにと。
――
巡礼では「フランス人の道」を歩いたと聞きました。
井島
はい。約800キロの行程を26日間、毎日朝6~7時から午後2~3時くらいまで、撮影しながら歩きました。高低差によって距離は変わりますが、1日平均で20~25キロほどでしょうか。
じつは2月、別の取材で背骨を圧迫骨折してしまって……リュックを背負って歩けるか心配でしたが、歩いていくにつれてリズムが生まれ、体も慣れ、最後まで気持ちよく歩けたと思います。
――
普通に考えたらすごく長い距離ですよね。道中、どんなことを感じながら歩いていたんですか?
井島
この撮影(5月)に行く前年の11月、ヴィパッサナー瞑想(釈迦が体系化し、受け継がれてきた伝統的な瞑想法)を10日間体験したんですが、そこで得た感覚をベースに歩き続けた感じですね。
目を閉じて感じていることと、景色を見ながら、移動しながら感じていることと、形は違いますが同じことが自分の中で続いていた気がしています。

キリスト教の聖地の一つ、聖ヤコブの遺骸が眠るサンティアゴ・デ・コンポステーラ(スペイン・ガリシア州)への巡礼路(『スペインサンティアゴ巡礼の道 聖地をめざす旅』(実業之日本社)をもとに作成)。(クリックで拡大)
――
瞑想と旅を重ね合わせた場合、ただ歩けばいいわけではなく、頭の中にある「考え」から離れ、自然とつながることが大事なのかなと。
井島
ええ。歩きながら何かを考えるというより、歩き続けることで自分の体がどう変わっていくか、それをふまえて自分の思いがどう変わるか……ずっと追いかけていた感じですね。

(つづく)

(2017年1月15日、逗子・シネマアミーゴにて収録)

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プロフィール

ポートフォリオ

井島健至 Takeshi Ijima

1974年、福岡県生まれ。横浜市立大学国際文化学部を中退後、1999年に渡米。ニューヨークに在住し、写真家の故宮本敬文氏に師事。2003年に帰国後、写真展「風と土~primalgravity」を東京・丸の内にて開催。広告や雑誌で幅広く活躍すると同時に、ライフワークとして「祈り」と「記憶」の痕跡をテーマに旅と撮影を続けている。書籍『ニッポン西遊記』(鶴田真由著)、『神結び 日本の聖地をめぐる旅』、『太陽と月の結び』(相川七瀬著)などにも作品を提供。2015年「懐かしき未来への旅in南砺」で第4回観光映像大賞特別賞を受賞。最新刊に『スペインサンティアゴ巡礼の道 聖地をめざす旅』がある。

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