世界を旅しながら、目の前に広がる景色とその背後にある神話世界を重ね合わせ、多くの作品を撮りつづけてきたカメラマンの井島健至さん。
2016年5月。これまで国内外の様々な国や地域を訪れてきた井島さんが向かった場所、それがスペインのサンティアゴ巡礼道でした。
聖ヤコブの遺骸が眠るというコンポステーラ(サンティアゴ・デ・コンポステーラ)へと向かう道は、ヨーロッパの各地から枝葉のように伸び、この数千年来、内なる神との邂逅を求める多くの人が歩き続けてきました。
人はなぜ旅をするのか? なぜ歩くのか? 2017年1月、逗子の「シネマアミーゴ」という小さな映画館に井島さんを招き、旅のスライドをたどりながらお話を聞きました。
羽黒修験道、中沢新一、ヴィパッサナー瞑想、南方熊楠……さまざまなエッセンスが重なり合った旅の体験は、アルケミストへの道そのもの。
内なる世界と外なる世界をつなげる、覚醒への旅路をお伝えしていきます。

長沼敬憲(ハンカチーフ・ブックス編集長)

2「資本」から「富本」へ

2019年7月25日

――
ヴィパッサナー瞑想は1日10時間、外部との連絡を断って、ひたすら瞑想するわけですよね? その体験を通してどう変わりましたか?
井島
歩きながらいろんなものがほどけていくというか、頭の中に付着した思い込みが全部バラバラになり、大切なものが一つひとつ積み上げられていく……そうした作業は、歩くときのほうがやりやすかったですね。
――
サンティアゴ巡礼の後、5日間、熊野に行ったと聞きました。熊野とサンティアゴ、違いはありましたか?
井島
熊野には、半年後の12月に撮影で訪れたんですが、違いはありましたね。ヨーロッパの風景も美しいのですが、多様性という点では日本のほうがより感じられた気がします。
写真を撮ろうとすると、美しさが最初の基準になりやすいのですが、日本の景色にはそうではない要素もいっぱいあって、写真に撮りづらいところがあるんです。その分、多くのものがその場にあるという差を感じました。
――
日本人は道というと、実際に歩く道だけでなく、そこに生き方としての道を重ねるところがありますね。
井島
サンティアゴ巡礼の場合、キリスト教がベースですから、まず原罪があって、懺悔があって、コンポステーラに向かう目的には、赦しというものが根底にあると思いますが、日本ではそれとはべつの形で精神性が存在していますよね。
――
日本人が歩くと、巡礼の意味も違ってくるかもしれません。
井島
ええ。日本では、禅のように(キリスト教とは)違った形で、心の働きに深くフォーカスする道が伝えられています。ヨーロッパの人の中にも、そうした場所であるという認識で日本に来られるところがあると思いますね。
――
井島さんの場合、どんなイメージで巡礼をとらえてきたんでしょう?
井島
この2年半くらいかけて体験してきたいろいろな思いが重なっているんですが……ヴィパッサナー瞑想を体験する前、中沢新一さんの講演会で平和について考える機会があったんです。
中沢さんは、平和を考えるときに「富とは何か?」がセットになると話され、いまの資本主義の「資」の字源は、死んだ貝殻をかたどったものだと説かれました。一方、「富」の字源は、家の中に酒壺があるイメージなので、富と発酵が重なります。つまり、死んだ貝殻をかたどった「資本」ではなく、発酵微生物という生命を内側に秘めた「富本」という捉え方に、経済というものを根本から書き換えるべきだという投げかけがあって、すごく印象に残っていたんです。
――
ああ、資本ではなく富本。

資本と富本

上部の「次」は「人が吐息をついて安心していること」、下部の「貝」は「子安貝=貨幣」の象形。無理せず手元にある財貨をあらわす。
上部の「うかんむり」は「屋根」、下部の「口」と「田」は「神に供える酒樽」の象形。家に物が豊かにそなわった状態をあらわす。
井島
生命が宿っていない型をシステム化させ、増殖させていくことを選ぶのか、生命そのものを中心に置き、平和を創造していくことを選ぶのか?
本来の巡礼とは解釈が違うと思うんですが、そうした問いかけの中で(サンティアゴ巡礼のシンボルである)帆立貝が現代の貨幣経済の原理の象徴のように自分には思えて。帆立貝というアイコンを自分なりに意味づけして、ゴールに向かったところはあります。
――
発酵するものを富と見立てると、お金の概念が違ってきますね。
井島
発酵によって大きく自己生成され、そこであり余ったものがコミュニティの中でシェアされていく……中沢さんもおっしゃっていましたが、こうしたやり方が(経済の)中心に置き換わらないと、平和そのものの原理も働きはじめないんじゃないかということですよね。
――
発酵と経済をつなげるのはおもしろい発想ですね。発酵によって自己増殖したものを富と呼ぶ?
井島
そうですね。一人一人、いろいろな思いで巡礼しているんだと思いますが、僕の場合はそうでした。
――
なるほど、それが井島さんにとって巡礼だったんですね。

(つづく)

(2017年1月15日、逗子・シネマアミーゴにて収録)

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プロフィール

ポートフォリオ

井島健至 Takeshi Ijima

1974年、福岡県生まれ。横浜市立大学国際文化学部を中退後、1999年に渡米。ニューヨークに在住し、写真家の故宮本敬文氏に師事。2003年に帰国後、写真展「風と土~primalgravity」を東京・丸の内にて開催。広告や雑誌で幅広く活躍すると同時に、ライフワークとして「祈り」と「記憶」の痕跡をテーマに旅と撮影を続けている。書籍『ニッポン西遊記』(鶴田真由著)、『神結び 日本の聖地をめぐる旅』、『太陽と月の結び』(相川七瀬著)などにも作品を提供。2015年「懐かしき未来への旅in南砺」で第4回観光映像大賞特別賞を受賞。最新刊に『スペインサンティアゴ巡礼の道 聖地をめざす旅』がある。

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