世界を旅しながら、目の前に広がる景色とその背後にある神話世界を重ね合わせ、多くの作品を撮りつづけてきたカメラマンの井島健至さん。
2016年5月。これまで国内外の様々な国や地域を訪れてきた井島さんが向かった場所、それがスペインのサンティアゴ巡礼道でした。
聖ヤコブの遺骸が眠るというコンポステーラ(サンティアゴ・デ・コンポステーラ)へと向かう道は、ヨーロッパの各地から枝葉のように伸び、この数千年来、内なる神との邂逅を求める多くの人が歩き続けてきました。
人はなぜ旅をするのか? なぜ歩くのか? 2017年1月、逗子の「シネマアミーゴ」という小さな映画館に井島さんを招き、旅のスライドをたどりながらお話を聞きました。
羽黒修験道、中沢新一、ヴィパッサナー瞑想、南方熊楠……さまざまなエッセンスが重なり合った旅の体験は、アルケミストへの道そのもの。
内なる世界と外なる世界をつなげる、覚醒への旅路をお伝えしていきます。

長沼敬憲(ハンカチーフ・ブックス編集長)

32年半の覚醒のサイクル

2019年8月1日


井島
(スライドの写真を説明しながら)この場所は見晴らしも良くて、一番道がきれいに見渡せる場所でした。
――
空間に出たんですね。
井島
ええ。
――
空間に出ることで体が変化する、そこに旅の意味があると思うんです。たとえば、(会場のある)逗子に来るだけで、体が変化するじゃないですか。
井島
写真をやりたいと思ったきっかけが、カメラマンの星野道夫さんの作品にあったとお話ししましたが、作品に感動するのと同時に、「ああ、この人はそこにいるんだ」と、星野さんがアラスカの大自然にいるのが感じられたんです。
自分もその場に行って、五感を通して直接感じたい、身をさらしたいというのがきっかけになったので、撮ることはもちろん、「自分が肉体を持ってそこに関わりたい」ということが一番のモチベーションだったと思います。
――
撮影のとき、どんなことを意識しているんですか?
井島
写真自体は、自分が反応したら、とにかく撮るようにしています。動物的な感覚で撮って、撮れたものに対してあとで思考していく感じですね。
――
今日の旅に関しては?
井島
この2年半、いろいろなことがあったんです。順を追っていくと、去年の8月にまず修験者の星野文紘さんの指導で山形県の月山を歩き、10月に中沢さんの講演、11月にヴィパッサナー瞑想があって、翌年の5月にサンティアゴ巡礼、12月に熊野を歩き……僕の中でこうした体験のすべてがつながっている感覚があって、そのなかでも一番長いストロークで経験させてもらったのがサンティアゴなんですね。
――
とすると、すでに月山のあたりから巡礼が始まっているような?
井島
ええ。歩きながら考えるということは、星野先達との山伏修行で始まっていたと思いますね。2泊3日でしたが、白装束をまとい、修験の山の中をひたすら歩き、滝に打たれ……黄泉がえり(甦り)のプロセスを体験させていただきました。その中で感じたことも、その後の拠りどころになったと思います。
――
そのあとに、中沢さん。
井島
ええ。平和に対する中沢さんのメッセージがあって、それを自分の中で熟考する体験としてヴィパッサナー瞑想があって、(意識の深い場所に)潜ったあとに、歩きながら振り返っていたのがサンティアゴだった感じです。自分はいま、確かにスペインにいるはずなのに、気持ちの中で羽黒月山とか、中沢さんの話とか、ヴィパッサナーとか、いろいろなものが混じっていて。
――
意識の中で、そういういくつものパラレルがあったんですね。
井島
そのあとに熊野が加わるんですが、月山が月、(サンティアゴの)コンポステーラのステラは星、熊野のシンボルは太陽……2年半の中で、「月」「星」「太陽」という3つのメタファー(暗喩)にまつわる場所を歩けたことが経験として大きかったですし、自分自身の探求するテーマにつながっていた気がします。
――
面白ですね。井島さんの求める世界が浮かび上がってくる気がします。

(つづく)

(2017年1月15日、逗子・シネマアミーゴにて収録)

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プロフィール

ポートフォリオ

井島健至 Takeshi Ijima

1974年、福岡県生まれ。横浜市立大学国際文化学部を中退後、1999年に渡米。ニューヨークに在住し、写真家の故宮本敬文氏に師事。2003年に帰国後、写真展「風と土~primalgravity」を東京・丸の内にて開催。広告や雑誌で幅広く活躍すると同時に、ライフワークとして「祈り」と「記憶」の痕跡をテーマに旅と撮影を続けている。書籍『ニッポン西遊記』(鶴田真由著)、『神結び 日本の聖地をめぐる旅』、『太陽と月の結び』(相川七瀬著)などにも作品を提供。2015年「懐かしき未来への旅in南砺」で第4回観光映像大賞特別賞を受賞。最新刊に『スペインサンティアゴ巡礼の道 聖地をめざす旅』がある。

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