世界を旅しながら、目の前に広がる景色とその背後にある神話世界を重ね合わせ、多くの作品を撮りつづけてきたカメラマンの井島健至さん。
2016年5月。これまで国内外の様々な国や地域を訪れてきた井島さんが向かった場所、それがスペインのサンティアゴ巡礼道でした。
聖ヤコブの遺骸が眠るというコンポステーラ(サンティアゴ・デ・コンポステーラ)へと向かう道は、ヨーロッパの各地から枝葉のように伸び、この数千年来、内なる神との邂逅を求める多くの人が歩き続けてきました。
人はなぜ旅をするのか? なぜ歩くのか? 2017年1月、逗子の「シネマアミーゴ」という小さな映画館に井島さんを招き、旅のスライドをたどりながらお話を聞きました。
羽黒修験道、中沢新一、ヴィパッサナー瞑想、南方熊楠……さまざまなエッセンスが重なり合った旅の体験は、アルケミストへの道そのもの。
内なる世界と外なる世界をつなげる、覚醒への旅路をお伝えしていきます。

長沼敬憲(ハンカチーフ・ブックス編集長)

4星の巡礼からアルケミストへ

2019年8月8日

『星の巡礼』の舞台にもなったフォンセバドンより。
井島
(写真を指しながら)ここは、フォンセバドンといって、パウロ・コエーリョの『星の巡礼』で、主人公が犬に化けた悪魔と戦う舞台になった場所です。
――
コエーリョのデビュー作ですよね。あの作品に憧れて、サンティアゴに来る人も多いと聞きますが……。
井島
そうみたいですね。
――
その彼の代表作が『アルケミスト』ですが、錬金術(アルケミー)は単に鉛を金に変えることではなく、先ほどの発酵の話にもつながってくるように感じます。通常の経済とは違った形で富を生み出すことであるというか。
井島
確かにそうですね。
――
『アルケミスト』と『星の巡礼』は根底でつながっていると思うんですね。つまり、人生のアルケミスト(錬金術師)になるために歩くという……。
井島
コエーリョの作品で言えば、「前兆をどう読み解くか?」ということになりますが、僕自身、いろいろと意味づけをしながら歩く中で、日数などの数を象徴として意識することも多かったです。
――
何日目であるとか?
井島
ええ。ヴィパッサナーで言えば、10日間の中で8、9、10日目に特に大きな変化を感じたんです。一日一日まったく個性が違っていましたが、特に8日目は、自分が生み出している恐怖が幻想であるということがハッキリ自覚できたときだったんですね。
自分の考え方や思考の癖が実感でき、何かが想念として生み出される前の段階で、その癖を解除できるという糸口がつかめたように思うんです。
――
おお、すごいですね。
井島
そうした癖からちょっと離れて自分を見たときに、どういうルートを通って不安や恐怖が生み出されるか、そのことに自覚的になれたというか。後手に回ると、そうしたネガティブな感情に巻きこまれてしまうじゃないですか。
――
つらいことや嫌なことがあると、その感情と一体化し、支配されてしまうのが普通ですよね。
井島
感情が生み出されるプロセスを俯瞰的に見る……そのリアルな経験が自分の中にあると、日常の中で感情が揺れ動くようなことがあっても、自分なりに引き戻していけると思うんです。
――
ヴィパッサナーで言うと、そうした感覚がピタッとはまったのが8日目だった?
井島
はい。前後にいろいろとありましたが、ハッと気づかされたというか、腑に落ちたと思うんですね。
――
サンティアゴに関しては?
井島
サンティアゴでは、死と再生を意味する「13」という数字(日数)に意識を向けていました。
計26日の巡礼期間を「13+13」と置き換えて、前半の13日間が内なる自己変容プロセス、後半の13日間が自己の外側に拡がる関係性の変容プロセスとみなして、内から外へ、一日一日を新鮮な気持ちで歩きました。
結果的には、まるで「メヴィウスの輪」を歩いているような……内と外が往還して合わせ鏡になったような(主客合一したような)感覚を実感する、とても貴重な経験になりました。

旅と出会いのプロセス



井島さんがたどってきた旅と出会いのプロセスを概念化したもの。「それぞれの縁を振り返り、結びつけることで、意識レベルで求めてきたものがより鮮明になると思う」(井島さん)。

(つづく)

(2017年1月15日、逗子・シネマアミーゴにて収録)

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プロフィール

ポートフォリオ

井島健至 Takeshi Ijima

1974年、福岡県生まれ。横浜市立大学国際文化学部を中退後、1999年に渡米。ニューヨークに在住し、写真家の故宮本敬文氏に師事。2003年に帰国後、写真展「風と土~primalgravity」を東京・丸の内にて開催。広告や雑誌で幅広く活躍すると同時に、ライフワークとして「祈り」と「記憶」の痕跡をテーマに旅と撮影を続けている。書籍『ニッポン西遊記』(鶴田真由著)、『神結び 日本の聖地をめぐる旅』、『太陽と月の結び』(相川七瀬著)などにも作品を提供。2015年「懐かしき未来への旅in南砺」で第4回観光映像大賞特別賞を受賞。最新刊に『スペインサンティアゴ巡礼の道 聖地をめざす旅』がある。

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