近年、腸にまつわる研究が世界的に注目を集めるなか、その重要なキーとして腸内細菌の生態、ヒトの健康との関わりなどが徐々に解明されてきています。
ヒトは食べることでエネルギーを得て、生命活動を営んでいますが、それは単独で成り立っているわけではなく、その背後には腸内細菌をはじめとする目に見えない微生物との協力関係、すなわち「共生」があります。
共生とはわたしとあなた、自己と非自己のコミュニケーション、この世界を一つの生態系として捉えた場合、腸もまたこうしたコミュニケーション空間の一部、いわばこの世界の縮図であることが見えてきます。
「TISSUE」では、腸内細菌研究のパイオニアで、「善玉菌」「悪玉菌」の名付け親である光岡知足さん(理化学研究所名誉研究員)の足跡をたどり、氏の提唱する生き方の哲学、発想について紹介してきました。
今回はその特別編として、光岡さんとも親交のある、食品免疫学者の上野川修一さん(東京大学名誉教授)に登場いただき、腸という小宇宙の実態、そして大きく進展する腸内細菌研究のいまについて伺いました。
2017年8月、東京都内で収録。
2腸内細菌も免疫システムの一部?
それと小腸で作られたIgAが大腸に運ばれる仕組みがあり、病原菌を抑えてくれます。さらに、食べ物のカスである食物繊維を腸内細菌が分解して、酪酸や乳酸を出すことで腸内のpHは酸性になります。こうした食べ物との関わりによって、結果的に病原菌の増殖を抑える働きもあると考えられています。
(つづく)
2017年8月、東京都内で収録。
プロフィール
上野川修一 Shuichi Kaminogawa
1942年、東京都出身。東京大学名誉教授。農学博士。東京大学農学部農芸化学科卒業。同大助手、助教授を経て、2003年まで東京大学大学院農学生命科学研究科教授。2012年まで日本大学生物資源科学科教授。食品アレルギーや腸管免疫のしくみ、腸内細菌のからだへの影響などの研究に従事。日本農芸化学会会長、内閣府食品安全委員会専門委員会座長、日本ビフィズス菌センター(腸内細菌学会)理事長を歴任。現在、日本食品免疫学会会長。紫綬褒章、国際酪農連盟賞、日本農芸化学会賞等を受賞。著書に、『からだの中の外界 腸のふしぎ』(講談社ブルーバックス)、『免疫と腸内細菌』(平凡社)、『からだと免疫のしくみ』(日本実業出版社)など多数。食アレルギー、腸管免疫、腸内細菌などに関する研究論文多数。
背景写真 by Jean-Philippe Delberghe on Unsplash