ビッグデータの活用が進み、AIによる自動化が進む時流のなか、システム工学の若き研究者である金尚弘さんが着目するのは、人の身体に内在する意識の働き。
人と工場、身体と機械、さらには感情とデータ……対極にあるかのように思えるこの二つの世界をつなげることで、いったい何が見えてくるのか?
普段あまり語られることのない、生物(人)と非生物(機械)の見えざる境界……。
その壁を注意深く取り払っていくと、無機質な機械の向こうにひょっこり人の姿が浮かんでくるような……。あるいは、それも幻影かのような……。
2018年12月、「骨ストレッチ」を実践されている金さんと、久しぶりに京都で再会。
彼の専門分野に分け入った、ちょっとふしぎな対話をお届けしましょう。

1工場というシステムを管理する

2019年9月23日

長沼
工場というのは、それ自体が一つの大きなシステムですよね?
ええ。「原料が入ってきて、製品が出ていく」という大きなシステムと思ってもらっていいと思います。人間の身体を「ごはんを食べて排出物を出すシステム」ととらえるのと同じですね。
長沼
人間では「代謝」と呼びますが、そうした入れて出す工場のプロセスが問題なく進むよう、研究に取り組まれている?
そうです。たとえば、更地に工場を建てる場合、まず「入と出」が決まっていて、そのためにどういう設備にしなければいけないかを考えます。それにはどんな大きさの設備や材料が必要か、温度管理をしたり、コスト計算、安全運転を保つためのデザイン方法を考えたり……。
長沼
そこも関与されているんですか? 設計自体は設計士さんがするんですよね?
工場を建てるには、コンストラクション(建設)と化学工学の両方が必要なんです。「どんな反応がどれくらい起こるか?」という化学の話は設計士さんにはわからないですから。
長沼
入口と出口という言い方をされましたが、それは「原料と製品」ということ?
ええ。たとえば、中東から石油を買ってきて、ガソリンとその他の製品を作るとします。それをどのくらいの施設でどのくらい作れば利益がちゃんと出るのかなどの計算をして、それに見合う設計を考えたりするわけです。
プロセスを建設し、運転するとたくさんのデータが収集できるので、それを見て、安定的に運転されているか、状態が良いか悪いかを自動的に判定する方法を開発したりしています。
長沼
一番注力されている部分はどこなんですか?
具体的な事例としては、不良品ができてしまう原因をつきとめたり、データに基づいて状態を予測したり、挙動がどうなっているかを数式化したり……。基本的には、データをうまく使って何かをしていくことが多いですね。
長沼
そういう異常は、データに現れ得るものなんですか?
「現れ得る」という前提のもとにやっていますね。設計する時も、センサーを取り付ける場所や個数は当てずっぽうな面もあるんですが、「こういう反応にはこの温度が大切」とか「ここでは温度を測らないといけない」などの知見はあるので、基本的にはそれに基づいています。
でも、多くの種類のデータが高頻度に得られるので、工場に詳しい人でも、どこに異常が現れているかがわからない場合があります。
解析というとAIが全自動でやってくれるイメージがありますが、それほど万能なわけではないので、それを現場でどう活かすか? 現場と機械の間の通訳のような役割もありますね。
長沼
人と機械の通訳ですか?
データ解析の方法は詳しいですが、それだけでは現実は変えられないことがいっぱいあるので。
長沼
そうやって解を導き出すというのは、工学の分野全般に言えること?
そうですね。たとえば、将棋にも「こういう状況から始めてこうなったら勝ち」というルールがありますが、どうしてそうなるかという情報を与えなくても、コンピューターが勝手に学習して名人に勝ったりしますよね。そういう感じのことを、工場を相手にやっているわけです。
長沼
機械に自分が将棋をやっているという認知はなくても、将棋としてのプロセスは成立してしまうということですね。
ええ。現場に解析した結果を提出する時も同じなんです。将棋でも、プロ棋士が見ても変な一手が、よくよく見ると良い手だったりしますが、それって説明が最初はつかないじゃないですか。でも、後々になってわかったりすることがありますよね? それと同じことを工場の改善を目的に行っていると思ってもらえたらいいと思います。

(つづく)

2018年12月、京都大学にて収録。

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プロフィール

ポートフォリオ

(上)金尚弘 Sanghong KIM

1986年、大阪市生まれ。2005年、京都大学工学部入学。2014年、京都大学工学部博士課程修了、同年4月、京都大学工学研究科化学工学専攻プロセスシステム工学研究室助教に就任。化学、製薬、半導体など様々な製造プロセスから得られるデータを解析、製造効率を改善するための方法論を開発し、社会に応用してきた。2016年、人間の運動機能の改善や動作分析の研究を開始。日本の古武術をベースにした身体技法「骨ストレッチ」の創始者である松村卓氏とともに、「WT-LINE®シューズ」の開発に取り組むなど、AI、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)に注目が集まる時流にとらわれず、自由な発想に基づいた研究に従事している。計測自動制御学会技術賞など、受賞歴多数。
オフィシャルサイト
http://www-pse.cheme.kyoto-u.ac.jp/members/kim/

(下)長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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