ビッグデータの活用が進み、AIによる自動化が進む時流のなか、システム工学の若き研究者である金尚弘さんが着目するのは、人の身体に内在する意識の働き。
人と工場、身体と機械、さらには感情とデータ……対極にあるかのように思えるこの二つの世界をつなげることで、いったい何が見えてくるのか?
普段あまり語られることのない、生物(人)と非生物(機械)の見えざる境界……。
その壁を注意深く取り払っていくと、無機質な機械の向こうにひょっこり人の姿が浮かんでくるような……。あるいは、それも幻影かのような……。
2018年12月、「骨ストレッチ」を実践されている金さんと、久しぶりに京都で再会。
彼の専門分野に分け入った、ちょっとふしぎな対話をお届けしましょう。

2最後には「好き嫌い」が問われてくる

2019年9月30日

長沼
研究者になられた段階で、デジタル化された環境だったわけですよね?
そうですね。
長沼
デジタルと言うと、職人的世界の対極に向かっていくようなイメージがあると思いますが、そこにも人の感情や意識が介在すると思うんです。相手が機械だからといって機械的に対処すればいいわけではないという……。
極論を言うと、僕は「好き嫌い」だと思っているんですけど(笑)。
長沼
何に対する「好き嫌い」?
(研究者である)自分自身の好き嫌いですね。たとえば、食べ物だったらキュウリは嫌い、海老フライは好きみたいな……そういう感情レベルの話と、他の人や社会との価値観の共有点を探すことが大切なのかなと思っています。
長沼
工場を動かすのにも?
ええ。たとえば、工場からもらったデータを見て無機質に話をしても、現場の人は「現場でやっている感覚」みたいなことで話されたりしますから、それらがクロスしないと現実はよくなりませんよね? だからこちらが好き、あちらが好きのどちらでもいいと思いますが、人とクロスできる部分を探すことがまず大事になります。
長沼
それはわかる気がします。
ただ、「好き嫌い」といった場合、こちら側の「好き」から始まっている感じなんです。この10年くらい、「データを出せ、何とかしてやる!」みたいな感じで、究極的には「こちら側だけでも何とかなるだろう!」と自分の関わる世界を広げてきましたが、向こう側がゼロになることはない。好き嫌いが最後には残ってくる。
長沼
現場の好き嫌いが?
はい。自分の好きな部分を追求するほど、できていないことが見えてくる感じですね。
長沼
データを突き詰めていっても、成り立たない何かがあるという?
原理的にできないことがわかってくると、逆に「好き嫌い」みたいな部分も大事にしないといけないんじゃないかと感じますよね。
それが実際にどういう形になるかはわからないですが、そうしたことを考えたうえで数字に触れると、おもしろいことが見えてきます。
長沼
以前、SNSでやりとりした際、「感情論的に方法論を研究する」という、ちょっと変わった言い方をされていましたね。
そうです。
長沼
工場には機械だけでなく人もいますから、トータルで円滑に進まないと良い結果が出ない、ということはわかります。でも、それをすり合わせようとしても、最後の最後にどうしても謎の部分が出てくるみたいな?
そうですね。何だかわからないことはあると思いますよね。このあたりは難しくて、誰も本当の答えは知らないというか……。
長沼
そこが面白い部分でもあると?
そうだと思います。

(つづく)

2018年12月、京都大学にて収録。

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プロフィール

ポートフォリオ

(上)金尚弘 Sanghong KIM

1986年、大阪市生まれ。2005年、京都大学工学部入学。2014年、京都大学工学部博士課程修了、同年4月、京都大学工学研究科化学工学専攻プロセスシステム工学研究室助教に就任。化学、製薬、半導体など様々な製造プロセスから得られるデータを解析、製造効率を改善するための方法論を開発し、社会に応用してきた。2016年、人間の運動機能の改善や動作分析の研究を開始。日本の古武術をベースにした身体技法「骨ストレッチ」の創始者である松村卓氏とともに、「WT-LINE®シューズ」の開発に取り組むなど、AI、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)に注目が集まる時流にとらわれず、自由な発想に基づいた研究に従事している。計測自動制御学会技術賞など、受賞歴多数。
オフィシャルサイト
http://www-pse.cheme.kyoto-u.ac.jp/members/kim/

(下)長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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