ビッグデータの活用が進み、AIによる自動化が進む時流のなか、システム工学の若き研究者である金尚弘さんが着目するのは、人の身体に内在する意識の働き。
人と工場、身体と機械、さらには感情とデータ……対極にあるかのように思えるこの二つの世界をつなげることで、いったい何が見えてくるのか?
普段あまり語られることのない、生物(人)と非生物(機械)の見えざる境界……。
その壁を注意深く取り払っていくと、無機質な機械の向こうにひょっこり人の姿が浮かんでくるような……。あるいは、それも幻影かのような……。
2018年12月、「骨ストレッチ」を実践されている金さんと、久しぶりに京都で再会。
彼の専門分野に分け入った、ちょっとふしぎな対話をお届けしましょう。

6不確実で曖昧なものの価値

2019年10月28日

確かに大学の先生にも「研究が楽しい」と言っている方は多いと思います。実際、好きにやれる自由が結構あったりしますから。結局、どんなことでも「主観的に何かをやっている」という点は拭い去れないですよね。
長沼
ええ、科学であっても、データ解析などの統計的な領域でも。
ただ、先ほども言いましたが、科学では「主観は取り除いたほうがいい」という見えない前提、暗黙のルールがあるわけで……。
それがよくないと思いますね。「この研究に主観はないですよ」という言い方で企画書を書いたり、研究予算を取ってきたりする、そうした始まり方がそもそも問題ではないかと。
それよりも、氣の合う人たちと研究するみたいな感じで始めたほうが面白い結果につながることが多いなと感じます。「けしからん奴だ」と言われても(笑)、人類の向き合ってきた課題につながることなのかもしれません。
長沼
そういう実例が増えると風通しもよくなるだろうし、活気が出てくるし。
たとえば、「好きで研究したのが良かったんだ」とノーベル賞を受賞した先生が話されますが、国や自治体などの予算を付ける側から、それでは仕事にならないと言われたり、生活のためにそれではやっていけないと思われたり……。
長沼
それって、正直、ゆがんだ科学信仰かなと僕は思うんですよね。主観は不確実、直観はあてにならないと言われますが、研究者のほとんどは直観で発明、発見しているでしょう?
そうなんですよ(笑)。
長沼
みんながうすうす感じている世界があって、感性がある人は当たり前に知っているわけです。ここでは、そうした当たり前をわざわざ口にして言っているという(笑)。
現状では、それが国の省庁レベルでできないというロックがかかっていて、純粋な直観など大切にする研究者であっても、研究費とか生活していくという現実的な問題にぶつかってしまうところがあります。個人だけでなく、いまは大学も企業もそこでぶつかってしまっていますね。よほどの大企業なら資金もあるでしょうけれど。
長沼
個人の問題にとどまらないと。
僕個人の研究とは規模感が違う話かもしれませんが、こういう認識に僕が行き着いたのは、やっぱりデータを無味乾燥に見ていくことを極めようとした結果であって。
長沼
とことん突き詰めることで反転した……。
ええ。そうした見方がそれこそ宇宙の仕組みに基づいたものであるならば、すべてに当てはまるわけじゃないですか? まあ、こんな話ができるのは僕が研究を真面目にやっていたからで、ありがたいことだなと思いますが(笑)。
長沼
たぶん、金先生はもともと感覚を持っていたんだと思います。だから、データを扱う研究や仕事がやれたのかなと。
感覚を逆に持っていたから?
長沼
はい。データって絶対に必要だと思うんです、データは不要、感覚だけでいいというわけではなく。陰陽という太極があるように、何事もバランスが必要なんじゃないかと思いますしね、やっぱり誰かがそれを担わないと。
で、自分自身でどちらもできるならいいですが、感覚が十分に備わっていければ偏ってしまって当然ですよね。いまの時代、データに偏りすぎているからバランスが悪いというのは多くの人が感じていることだろうし、だから感覚を磨くのは大前提という話になってきます。
ただ、自分で感覚を磨いてきたという自覚は全然ないですね。

(つづく)

2018年12月、京都大学にて収録。

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プロフィール

ポートフォリオ

(上)金尚弘 Sanghong KIM

1986年、大阪市生まれ。2005年、京都大学工学部入学。2014年、京都大学工学部博士課程修了、同年4月、京都大学工学研究科化学工学専攻プロセスシステム工学研究室助教に就任。化学、製薬、半導体など様々な製造プロセスから得られるデータを解析、製造効率を改善するための方法論を開発し、社会に応用してきた。2016年、人間の運動機能の改善や動作分析の研究を開始。日本の古武術をベースにした身体技法「骨ストレッチ」の創始者である松村卓氏とともに、「WT-LINE®シューズ」の開発に取り組むなど、AI、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)に注目が集まる時流にとらわれず、自由な発想に基づいた研究に従事している。計測自動制御学会技術賞など、受賞歴多数。
オフィシャルサイト
http://www-pse.cheme.kyoto-u.ac.jp/members/kim/

(下)長沼敬憲 Takanori Naganuma

作家。出版プロデューサー、コンセプター。30 代より医療・健康・食・生命科学などの分野の取材を開始、書籍の企画・編集に取り組む。著書に、『腸脳力』『最強の24時間』『ミトコントドリア“腸”健康法』など。エディターとして、累計50万部に及ぶ「骨ストレッチ」シリーズなどを手がけたほか、栗本慎一郎、光岡知足などの書籍も担当。2015年12月、活動拠点である三浦半島の葉山にて「ハンカチーフ・ブックス」を創刊、編集長を務める。哲学系インタビューBOOK『TISSUE(ティシュー)』を創刊。科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」(バイオ&アンスロポス)主宰。2018年夏、5年の歳月をかけてライフワーク『フードジャーニー』を脱稿。オフィシャルサイト「Little Sanctuary」(リトル・サンクチュアリ)

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