タイトルを直訳すると、「あなたの骨を感じよう」。それが英語では、「直観に従おう」という意味になります。骨と直観的なものを結びつける感覚……。不思議に思うかもしれませんが、日本人も古くから骨という言葉に大事な意味を託してきました。

たとえば、「骨がある」「気骨がある」「骨を拾う」……どれも精神との深い関わりを連想させます。つまり、目には見えない骨にこそ、その人の根本を支える大事な魂が宿っている。その骨を効果的に活用することで、パフォーマンスを劇的に向上させるメソッドが「骨ストレッチ」です。

創始者の松村卓さんと出会い、いくつかの縁がつながれていくことで、最初の本を世に送り出したのが2011年。2016年4月に収録した今回のインタビューでは、最初の本の撮影の舞台となった東京の代々木公園で松村さんと落ち合い、ゆっくりと過去・現在・未来へといたる道のりをたどっています。インタビューから3年経ったいま、当時を改めて振り返ってみましょう。

6腕を振らないほうがラクに走れる?

2019年12月19日

松村
「柔よく剛を制する」という言葉がありますよね? 柔道というのは、柔の道であるはずなのに、いまは剛の道になってしまっている。「北斗の拳」で言えば、みんなラオウのほうを目指してしまうんですね。
――
思えば、柔道ってすごくいい言葉ですよね。
松村
そう、柔らかさを求める道なんですよ。それが、力づくでつかんで、倒そうとするでしょう? 本当は触れるだけでもいいんです。触れるという字を見ると「虫の角」と書きますね。要するに、触れるということは虫の触覚の動きなんですよ。
――
また面白いことに着目しますね。
松村
つまり、虫たちは相手に触れることで、自分に危害を及ばさないかどうかを調べている。触れて大丈夫かなと確認しているわけですが、つかんでしまうと、それがわからなくなるんです。(手で触れる動きを示しながら)このくらいの感覚で触られるとすごく嫌でしょう? で、逆につかまれたほうが安心する。普通の発想と逆なんです。
――
こうして説明していただき、体感すると、「よく考えればそうだな」ってわかりますが、通常はそういう発想にすらならない。要するに、みんなでマジックにかかってしまっているんですね。
松村
まさしくそうだと思います。
――
それで、しないでいい苦労をしている。わざわざ力づくになって、必死になって動かそうと四苦八苦する。おそらくあらゆる分野で、これと同じことをしてきているんでしょう。
松村
専門家がいろいろと分析をして、ウサイン・ボルトのような黒人の大腰筋と日本人の大腰筋の数が違うんだと、その時点で日本人は勝てるわけがないんだって力説するんです。日本人が9秒台で走れないのは、大腰筋の太さのせいだと。そう言われてしまうと、「じゃあ、勝てないんだ」と思ってしまいますよね。
――
特に科学的にそうだと言われると、それ自体がマジックになりますね。
松村
ところが、能楽師の安田登さんの本に書いてあったのですが、大腰筋というのは骨盤を立てないと使えない。でも、黒人は骨盤が前傾しているから、じつは大腰筋はあまり使えていないんです。それでもあれだけ速いのに、大腰筋の量が違うからっていう言葉を信じてしまう。おっしゃる通り、マジックですよね? こういう説明をすると、うちのランニング教室に来られた方はみんなゲラゲラ笑う。そうだ、その通りですねって。
――
先生のお話で、マジックが解けたからでしょうね。「じゃあ、勝てないんだ」から「勝てるかもしれない」という意識になるだけで、走りの質は変わってくると思います。
松村
欧米人は椅子の民族だから、ハムストリングや大臀筋が発達しているから強いとか、それもマジックだと思いますよ。冷静に考えていくと、こうした話がいっぱい出てくるんです。
――
マジックにかかっている人は、そうした話が当たり前だと思って、知らないうちに自分の動きを制限したり、ゆがめたりしているわけですよね。何かきっかけがあれば「な〜んだ」となるんでしょうが。
松村
長い間、腕を振らなきゃ速く走れないって言われてきましたが、じつは振ったら遅くなる。そこをひも解きする人がいなかった。
――
先生にかかると、ランニングの常識、スポーツの常識がどんどんと崩れて、跡形もなくなってしまう(笑)。
松村
骨ストレッチのランニング教室では、腕振るとどれだけ走るのが遅くなるか、どれだけ身体にダメージがあるかということを、受講者の方に体験してもらっています。
――
自分の感覚で、自分の身体で味わってみる。
松村
そうです。それで、腕を振らない、身体の骨組みを意識したランニング法をお伝えするわけですが、そのほうがずっとラクなんですよ。「いいんですよ、腕を振って走っても」と言っても、「二度と腕は振りません」って必ずなる。一瞬で変わるんです。これもマジックでしょう?

(つづく)

インタビューは、2016年4月、東京・代々木にて収録(哲学系インタビューBOOK「TISSUE Vol.1」より転載)。

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プロフィール

ポートフォリオ

松村卓 Takashi Matsumura
1968年、兵庫県生まれ。中京大学体育学部体育学科卒業。陸上短距離のスプリンターとして活躍。100mの最高タイムは10秒2(追風2.8m)。北海道国体7位、東日本実業団4位、全日本実業団6位などの実績を持つ。現役引退後、ケガが絶えなかった現役時代のトレーニング法を根底から見直し、筋肉ではなく骨の活用法に重点を置いた画期的なストレッチ法「芯動骨整体(骨ストレッチ)」を創始。体幹部を効果的に活用できる「骨ストレッチ・ランニング」「骨ストレッチ・ゴルフ」などを生み出し、全国で講習会を開催するほか、独自の「WTラインシューズ」を開発。著書に、ベストセラーになった『ゆるめる力 骨ストレッチ』(文藝春秋)、甲野善紀氏との対談『「筋肉」よりも「骨」を使え!』(ディスカヴァートウェンティワン)などがある。2019年12月、スポーツ全般をテーマにした『骨ストレッチでスポーツ〜しなやかに動けるからだへ』(阿部出版)を刊行。http://www.sportcare.info

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