目には見えない微生物たちの働きがヒトの健康に大きな影響を与えている……その象徴が、腸内に棲んでいる無数の細菌たち(腸内細菌)。日本はこうした腸内細菌の働きを助ける発酵食品の宝庫ですが、「なぜ腸内細菌が重要なのか?」「腸の健康を保つことがなぜ心身の健康につながるのか?」……肝心な点が意外と知られていません。
腸内細菌学の生みの親である光岡知足さんのお話を通し、腸・健康・食事の関わりをじっくりと探っていきましょう。

4「発酵乳・乳酸菌飲料」はこうして広まった

2019年10月17日

光岡
なぜかと言うと、厚生省がつくった乳等省令という法律があって、発酵乳や乳酸菌飲料を作るときはこれを守らなければならなかったわけですが、当時はビフィズス菌じゃなく、アシドフィルス菌かブルガリア菌を使うことを義務づけていたんです。
つまり、ブルガリア菌とアシドフィルス菌が発酵乳を作る菌として大手を振って歩いていた。そこで、私の先生である越智勇一先生が間に入って、法律を変えたんです。その結果、菌種を決めることはやめて、乳酸菌と酵母を使って作ったものが発酵乳、乳酸菌飲料ということになった。この乳酸菌のなかに、ビフィズス菌もブルガリア菌も、アシドフィルス菌、カゼイ菌もすべて含まれているわけです。
――
このときに改正した法律が今も通用している?
光岡
そうです。そうしないと、それまで売られたヤクルトはカゼイ菌を使っているから食品衛生上に違反になっちゃう。改正されたので違反にならない(笑)。
――
ヤクルトは、これを機にカゼイ菌だと改めたんですか?
光岡
そうです。「アシドフィルス・カゼイ・シロタ株」ということになったんです。まあ、菌株保存センターの菌種を調べても、本当のアシドフィルス菌でないものをそう呼んでいた時代でしたから、仕方ないとも言えますが……。
――
各メーカーもこの法律をふまえて製品を販売するようになったわけですね。
光岡
それまでは日本の機関では乳酸菌の正確な分類ができなかったんです。私がそれを発表したら、どうやってアシドフィルス菌じゃなくてカゼイ菌だって分かるのか講演してくれって言われて、学会で講演したりしました。
そしたら、私のところに習いに来ましたよ。各メーカーからそれぞれ研究員を派遣してね。それで、アシドフィルス菌とカゼイ菌では、この糖分解が違うでしょ、発育温度も違うでしょ、ということを全部教えてあげたんです。ビフィズス菌についても、ビフィズス菌ではあるけどもこれはヒトの腸内にいるものではないとか、いろいろと細かくね。
――
なるほど。そうやって、少しずつ先生の腸内細菌の研究が広まっていって、メーカーの認識も変わっていったわけですね。

(つづく)

光岡知足インタビュー(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」所収)より転載。

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プロフィール

ポートフォリオ

光岡知足(みつおか・ともたり)
1930年、千葉県市川市生まれ。東京大学農学部獣医学科卒業。同大学院博士課程修了。農学博士。’58年、理化学研究所に入所。ビフィズス菌をはじめとする腸内細菌研究の世界的な権威として同分野の樹立に尽力。腸内フローラと宿主とのかかわりを提唱し、腸内環境のバランスがヒトの健康・病態を左右すると指摘した。「善玉菌」「悪玉菌」の名づけ親としても知られている。

ベルリン自由大学客員研究員、理化学研究所主任研究員、東京大学農学部教授、日本獣医畜産大学教授、日本ビフィズス菌センター理事長を経て、現在、東京大学名誉教授、理化学研究所名誉研究員、日本獣医生命科学大学名誉博士。日本農学賞、科学技術長官賞、日本学士院賞、メチニコフ賞などを受賞。趣味はクラシック音楽鑑賞とバイオリン演奏。大学在学中からバイオリン奏者として市川交響楽団にも在籍。

著書は「腸内細菌の話」「健康長寿のための食生活」(以上、岩波書店)、「腸内菌の世界」(叢文社)、「人の健康は腸内細菌で決まる!」(技術評論社)、「腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ」(祥伝社)、「大切なことはすべて腸内細菌から学んできた」(ハンカチーフ・ブックス)など多数。

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