目には見えない微生物たちの働きがヒトの健康に大きな影響を与えている……その象徴が、腸内に棲んでいる無数の細菌たち(腸内細菌)。日本はこうした腸内細菌の働きを助ける発酵食品の宝庫ですが、「なぜ腸内細菌が重要なのか?」「腸の健康を保つことがなぜ心身の健康につながるのか?」……肝心な点が意外と知られていません。
腸内細菌学の生みの親である光岡知足さんのお話を通し、腸・健康・食事の関わりをじっくりと探っていきましょう。

7「カルピス」と「ヤクルト」の違いはどこにある?

2019年11月7日

――
ところで、こうした研究のきっかけの一つに「カルピス」という、おなじみの乳酸菌飲料が関係していると伺ったことがありますが……。
光岡
そうです。カルピスの歴史も古いですが、乳酸菌を殺菌して使用しているところがヤクルトやヨーグルトとは大きく違います。
――
プロバイオティクスの定義からはみ出てしまうわけですね。
光岡
ええ。ですから、死菌でも健康にプラスの効果があるかどうかということが、彼らにとっては重要なことだったんです。そこで、死菌(殺菌乳酸菌)にも効果があるのか、カルピスの依頼でマウスを使った実験をしたんです。1970年頃のことです。
その結果、マウスに殺菌乳酸菌飲料を加えたエサを与えると、普通の固形飼料を与えた場合より延命作用や抗ガン作用がずっと高いことがわかりました。しかも、マウスの腸内フローラ(腸内環境)を調べると、ビフィズス菌の菌数そのものが増えているんです。
――
なるほど。こうした実験を通じて、「菌が生きているかどうかは重要ではない」ということがわかってきたわけですね。
光岡
誤解のないように言えば、ヨーグルトなどで生きた菌を摂った場合でも、菌の成分(死骸)が腸に届きさえすればいいのです。そうすれば、腸管の免疫が刺激され、結果として長寿につながることになります。
――
そう考えると、乳酸菌の種類よりも、腸に届く菌の数のほうがずっと大事だと言えそうですね。この点については次の回に詳しくお伺いしていきますが、カルピスって、糖分の量が多すぎではないですか?
光岡
多いですね。カルピスは甘いから健康には良くないと、メーカーサイドにはずっと言ってきました。でも、「初恋の味」ということでやってきましたから、なかなか味は変えられないようです。
――
殺菌乳酸菌の効果を考えると、ちょっともったいない気がしますが……。まあ、嗜好品として考えればいいんでしょうね。
光岡
ヤクルトにしても糖が多くて甘いですからね。あれ以上量を多くすると高血糖のリスクが高まってしまいますが、かといって、菌数を多く摂ることを考えた場合、あれでは全然足りないわけです。
――
なるほど。商品として成り立たせようと考えると、健康効果が活かせないことが多いんですね。いろいろと難しいなあ。専門的な話がちょっと続いたので、次回、もう少し具体的に腸内環境を整える食事の摂り方などをお伺いしていきたいと思います。

(つづく)

光岡知足インタビュー(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」所収)より転載。

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プロフィール

ポートフォリオ

光岡知足(みつおか・ともたり)
1930年、千葉県市川市生まれ。東京大学農学部獣医学科卒業。同大学院博士課程修了。農学博士。’58年、理化学研究所に入所。ビフィズス菌をはじめとする腸内細菌研究の世界的な権威として同分野の樹立に尽力。腸内フローラと宿主とのかかわりを提唱し、腸内環境のバランスがヒトの健康・病態を左右すると指摘した。「善玉菌」「悪玉菌」の名づけ親としても知られている。

ベルリン自由大学客員研究員、理化学研究所主任研究員、東京大学農学部教授、日本獣医畜産大学教授、日本ビフィズス菌センター理事長を経て、現在、東京大学名誉教授、理化学研究所名誉研究員、日本獣医生命科学大学名誉博士。日本農学賞、科学技術長官賞、日本学士院賞、メチニコフ賞などを受賞。趣味はクラシック音楽鑑賞とバイオリン演奏。大学在学中からバイオリン奏者として市川交響楽団にも在籍。

著書は「腸内細菌の話」「健康長寿のための食生活」(以上、岩波書店)、「腸内菌の世界」(叢文社)、「人の健康は腸内細菌で決まる!」(技術評論社)、「腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ」(祥伝社)、「大切なことはすべて腸内細菌から学んできた」(ハンカチーフ・ブックス)など多数。

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