目には見えない微生物たちの働きがヒトの健康に大きな影響を与えている……その象徴が、腸内に棲んでいる無数の細菌たち(腸内細菌)。日本はこうした腸内細菌の働きを助ける発酵食品の宝庫ですが、「なぜ腸内細菌が重要なのか?」「腸の健康を保つことがなぜ心身の健康につながるのか?」……肝心な点が意外と知られていません。
腸内細菌学の生みの親である光岡知足さんのお話を通し、腸・健康・食事の関わりをじっくりと探っていきましょう。

8「プロバイオティクス」から「バイオジェニックス」へ

2019年11月14日

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生きた菌、死んだ菌に限らず、一定の数の乳酸菌を摂取すると腸内の免疫が刺激され、それが腸内環境を改善したり、体全体の健康に結びついたりする。これが、先生の研究によってわかってきたヨーグルトなどの発酵食品が体に及ぼす影響、つまり健康効果ということですね。
光岡
そうです。生きた菌にこだわる必要がないので、従来のプロバイオティクスという概念が当てはまりません。そこで新たに「バイオジェニックス」という概念を提唱するようになったのです。
――
要はヨーグルトなどに含まれる乳酸菌の死骸が腸を刺激するということですね? ということは、どれくらいの量を摂ればいいかが問題になってくる気がします。
光岡
正確に言えば、量というよりも菌の数ですね。
――
なるほど。では、ヨーグルトをどれくらい摂れば腸内の免疫が効果的に刺激されるんでしょうか?
光岡
そうした実験はまだされていないと思います。これからの課題でしょう。
――
メチニコフは確か1日300~500mlの摂取をすすめているんですよね?
光岡
ええ。ただそれも明確な根拠があって言っているわけではありません。経験的にそれくらいの量をすすめていたんだと思いますよ。
――
500mlのヨーグルトというとかなりの量ですが、そこにどれくらいの乳酸菌が含まれているんですか?
光岡
市販のヨーグルトやヤクルトのような乳酸菌飲料には、1mlあたり1000万個以上の乳酸菌が含まれています。法律(乳等省令)でそう定められているので、それ以下のものはヨーグルト(発酵乳)や乳酸菌飲料としては販売できないんです。500mlのヨーグルトでは50億個ということになりますね。
――
数字だけ見るとすごく多そうに感じますが、腸内細菌の総数が100兆・500種類くらいなんですよね? 100兆の菌に対して50億は多いのか、少ないのか? 繰り返しますが、その点はハッキリわかっていないということですね?
光岡
わかってはいません。少なくとも腸内の善玉菌がそれで増えるということはない。ビクともしないでしょう。繰り返しますが、死菌(菌の成分)が免疫を刺激する、その結果、善玉菌が増える可能性があるということです。

(つづく)

光岡知足インタビュー(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」所収)より転載。

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プロフィール

ポートフォリオ

光岡知足(みつおか・ともたり)
1930年、千葉県市川市生まれ。東京大学農学部獣医学科卒業。同大学院博士課程修了。農学博士。’58年、理化学研究所に入所。ビフィズス菌をはじめとする腸内細菌研究の世界的な権威として同分野の樹立に尽力。腸内フローラと宿主とのかかわりを提唱し、腸内環境のバランスがヒトの健康・病態を左右すると指摘した。「善玉菌」「悪玉菌」の名づけ親としても知られている。

ベルリン自由大学客員研究員、理化学研究所主任研究員、東京大学農学部教授、日本獣医畜産大学教授、日本ビフィズス菌センター理事長を経て、現在、東京大学名誉教授、理化学研究所名誉研究員、日本獣医生命科学大学名誉博士。日本農学賞、科学技術長官賞、日本学士院賞、メチニコフ賞などを受賞。趣味はクラシック音楽鑑賞とバイオリン演奏。大学在学中からバイオリン奏者として市川交響楽団にも在籍。

著書は「腸内細菌の話」「健康長寿のための食生活」(以上、岩波書店)、「腸内菌の世界」(叢文社)、「人の健康は腸内細菌で決まる!」(技術評論社)、「腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ」(祥伝社)、「大切なことはすべて腸内細菌から学んできた」(ハンカチーフ・ブックス)など多数。

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