目には見えない微生物たちの働きがヒトの健康に大きな影響を与えている……その象徴が、腸内に棲んでいる無数の細菌たち(腸内細菌)。日本はこうした腸内細菌の働きを助ける発酵食品の宝庫ですが、「なぜ腸内細菌が重要なのか?」「腸の健康を保つことがなぜ心身の健康につながるのか?」……肝心な点が意外と知られていません。
腸内細菌学の生みの親である光岡知足さんのお話を通し、腸・健康・食事の関わりをじっくりと探っていきましょう。

9乳酸菌のサプリメントを摂取することの意味

2019年11月21日

――
ちなみに、先生はヨーグルトを一日どれくらい摂っておられるんですか?
光岡
私は250mlくらいでしょうか。ドイツに留学した1964年以来、毎日の習慣としてヨーグルト食はずっと続いています。
――
そうしたヨーグルト食によって腸内環境が改善された、つまりお通じが良くなるとか、便のにおいがなくなるとか、そういう効果を体感された。だから、何十年にもわたって続けてこられたわけですね。
光岡
そうです。ただ、あくまで個人差はあります。量については自分で確かめなければなりません。それから、食事の内容もとても重要です。ヨーグルトさえ摂れば健康になれるわけではないですから、その点を勘違いしてはいけません。
――
仮に250mlだとしても、毎日食べるのは大変だ、飽きるという人はいますからね。そういう人が無理やり「体にいい」と続けても、あまり効果があるとは思いません。
光岡
体にいいものであっても、好きだから食べるということでいいんですよ。嫌なら摂らなければいい。
――
ところで、菌の数が重要ということで言えば、いわゆるサプリメントで乳酸菌を摂取したほうがいいことになりますね? 一般的には乳酸菌製剤、乳酸菌生成物質などと総称されているサプリメントのことですが、小さなカプセルのなかに1兆個ほどの菌が含まれていると聞いたことがあります。
光岡
正確な菌数はハッキリわかりませんが、そのくらいのものもあるでしょう。
――
実際、効果はあるんでしょうか?
光岡
私の知る限り、イタリアのギオンチェティという学者が、潰瘍性大腸炎の患者に1日2兆個ものプロバイオティクス(乳酸菌製剤)を摂取させることで効果が得られたという報告はあります。
――
プロバイオティクスということは、この学者は生きた乳酸菌を使ったサプリメントを患者さんに投与したということですね。サプリ=死菌を使用というイメージが漠然とあったのですが、そうではないんですね?
光岡
詳しく言えば、死菌や菌の分泌物を使ったサプリメントが乳酸菌生産物質、生きた菌を凍結乾燥させてカプセルに閉じ込めたものが乳酸菌製剤と呼ばれています。
前者は生きた菌を使わないので、一般的に知られているプロバイオティクスではなく、私がいうバイオジェニックスに該当すると考えればいいでしょう。
――
なるほど。生きた菌でも死んだ菌でも、どちらでもサプリメントは開発できるのだと。いずれにせよ、そうしたサプリを摂ったほうがヨーグルトよりはるかに効果はあるはずですよね? 菌の数が重要であるわけですから……。
光岡
そうですね。サプリメントとしては高額ですが、先ほどの潰瘍性大腸炎のように特定の疾患を抱えた人などは試す価値があるでしょう。症例自体はかなりあります。カプセルで飲めますから、毎日摂っても飽きるということもありません。
――
大手の乳業メーカーは、こういうサプリメントの開発をしないんですかね? そうすれば、価格も下がっていくと思うんですが……。
光岡
自分のところの商品とバッティングしてしまいますから、おそらくあまり手はつけないでしょう。
――
乳酸菌生産物質のサプリを作っているのは、大手メーカーより規模の小さなところが多いと思いますが、十分なエビデンスが取りにくいですし、不利な面がありますよね。こうしたサプリメントに理解のある一部の医者が、自分の患者さんにすすめているくらいが現状かもしれません。

(つづく)

光岡知足インタビュー(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」所収)より転載。

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プロフィール

ポートフォリオ

光岡知足(みつおか・ともたり)
1930年、千葉県市川市生まれ。東京大学農学部獣医学科卒業。同大学院博士課程修了。農学博士。’58年、理化学研究所に入所。ビフィズス菌をはじめとする腸内細菌研究の世界的な権威として同分野の樹立に尽力。腸内フローラと宿主とのかかわりを提唱し、腸内環境のバランスがヒトの健康・病態を左右すると指摘した。「善玉菌」「悪玉菌」の名づけ親としても知られている。

ベルリン自由大学客員研究員、理化学研究所主任研究員、東京大学農学部教授、日本獣医畜産大学教授、日本ビフィズス菌センター理事長を経て、現在、東京大学名誉教授、理化学研究所名誉研究員、日本獣医生命科学大学名誉博士。日本農学賞、科学技術長官賞、日本学士院賞、メチニコフ賞などを受賞。趣味はクラシック音楽鑑賞とバイオリン演奏。大学在学中からバイオリン奏者として市川交響楽団にも在籍。

著書は「腸内細菌の話」「健康長寿のための食生活」(以上、岩波書店)、「腸内菌の世界」(叢文社)、「人の健康は腸内細菌で決まる!」(技術評論社)、「腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ」(祥伝社)、「大切なことはすべて腸内細菌から学んできた」(ハンカチーフ・ブックス)など多数。

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