目には見えない微生物たちの働きがヒトの健康に大きな影響を与えている……その象徴が、腸内に棲んでいる無数の細菌たち(腸内細菌)。日本はこうした腸内細菌の働きを助ける発酵食品の宝庫ですが、「なぜ腸内細菌が重要なのか?」「腸の健康を保つことがなぜ心身の健康につながるのか?」……肝心な点が意外と知られていません。
腸内細菌学の生みの親である光岡知足さんのお話を通し、腸・健康・食事の関わりをじっくりと探っていきましょう。

10腐敗か発酵か、それが腸の健康のバロメーター

2019年11月28日

光岡
そうでしょう。だから研究がなかなか進まないという問題もあります。ところで、ヨーグルトにはもう一つ問題がありました。たくさん摂ったほうがいいんですが、脂肪の量が多いんです。
光岡
先生は、ヨーグルトをたくさん摂るなら低脂肪のものにするべきだと、ずっと言ってこられたわけですよね?
光岡
そうです。私はずっと以前から低脂肪のヨーグルトを開発するべきだと言ってきました。それがようやく実現し、いまでは低脂肪のヨーグルトも普通に販売されるようになりましたが……。
牛乳や乳製品は3%が脂肪ですから、100ml摂ると3g、私のように250ml摂れば7.5gです。こうなると、さすがに動物性脂肪の摂りすぎでしょう。
光岡
もちろん、プレーンがおすすめですね?
光岡
ええ。ヨーグルトは本来、砂糖を入れずにプレーンで摂るものです。甘みが欲しい人は、オリゴ糖を加えたり、果物などと一緒に食べればいい。私も、毎朝そうやっていただいていますよ。
――
朝の定番をもう少し詳しく教えていただけますか?
光岡
無脂肪のプレーンヨーグルト250mlにブルーベリーやサイリウム、イサゴール(ともに天然の食物繊維)などを入れていただいていますね。ほかに小さなパンを一つ。市販の野菜ジュースを1パック。
――
このへんは各自で工夫するといいかもしれないですね。
光岡
そうです。私の食事を参考にしても構いませんが、それが自分の体に合っているかどうか、便の状態を基準にすることです。毎日便があるかどうか、便の状態がどうかで、腸の健康状態は判断できますから。
――
おなかに優しいものを摂っていたとしても、便の出が悪かったり、においがきつかったり、硬かったりしたらどこかに問題があるということですね。
光岡
そう。毎日、排便するというのが大事なことです。
――
その便も、においが強かったり、硬かったりしたら、何か問題があるのだと。みんな便はにおうものだと思っていて、「乳酸菌系の、すっぱいにおいになる」って言っても、信じない人もいるんです。で、すごくびっくりする。要は、腐敗しているか発酵しているかの違いですよね。
光岡
腐敗というのは、pH8以上のアルカリ性で起こるものなのです。それが、pH6.0以下の酸性になると腐敗菌(悪玉菌)が発育できないような腸内環境になる。腐敗菌の代わりに、乳酸菌などの善玉菌が多くなるんですね。乳酸菌が多いと、腸内で腐敗菌は増殖できないんです。
――
発酵か腐敗か、つねにこの点をバロメーターにして体調をチェックすればいいわけですね。仮に体にいい食事をしているつもりでも、便が改善されなければ……。
光岡
何か原因があるんでしょう。日常のストレスも関与していますから、食べ物だけを変えても便通が良くならない場合もありますが、便の状態がその人の健康状態の目安となることは間違いありません。
いずれにしても、いまの自分の体調を知る一番簡単な方法ですから、便のチェックだけは毎日欠かさずにしてほしいですね。私がサイリウム(イサゴール)を摂っているのも、便秘を予防し、日々の健康状態を確保するための一種の安全弁です。

(つづく)

光岡知足インタビュー(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」所収)より転載。

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プロフィール

ポートフォリオ

光岡知足(みつおか・ともたり)
1930年、千葉県市川市生まれ。東京大学農学部獣医学科卒業。同大学院博士課程修了。農学博士。’58年、理化学研究所に入所。ビフィズス菌をはじめとする腸内細菌研究の世界的な権威として同分野の樹立に尽力。腸内フローラと宿主とのかかわりを提唱し、腸内環境のバランスがヒトの健康・病態を左右すると指摘した。「善玉菌」「悪玉菌」の名づけ親としても知られている。

ベルリン自由大学客員研究員、理化学研究所主任研究員、東京大学農学部教授、日本獣医畜産大学教授、日本ビフィズス菌センター理事長を経て、現在、東京大学名誉教授、理化学研究所名誉研究員、日本獣医生命科学大学名誉博士。日本農学賞、科学技術長官賞、日本学士院賞、メチニコフ賞などを受賞。趣味はクラシック音楽鑑賞とバイオリン演奏。大学在学中からバイオリン奏者として市川交響楽団にも在籍。

著書は「腸内細菌の話」「健康長寿のための食生活」(以上、岩波書店)、「腸内菌の世界」(叢文社)、「人の健康は腸内細菌で決まる!」(技術評論社)、「腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ」(祥伝社)、「大切なことはすべて腸内細菌から学んできた」(ハンカチーフ・ブックス)など多数。

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