目には見えない微生物たちの働きがヒトの健康に大きな影響を与えている……その象徴が、腸内に棲んでいる無数の細菌たち(腸内細菌)。日本はこうした腸内細菌の働きを助ける発酵食品の宝庫ですが、「なぜ腸内細菌が重要なのか?」「腸の健康を保つことがなぜ心身の健康につながるのか?」……肝心な点が意外と知られていません。
腸内細菌学の生みの親である光岡知足さんのお話を通し、腸・健康・食事の関わりをじっくりと探っていきましょう。

12「吸収が遅い食べ物」が腸の働きを元気にする

2019年12月12日

――
腸内で善玉菌のエサになるプレバイオティクス食品の一つに、オリゴ糖がありますね? こちらは砂糖の代わりに調理に使うのが基本だと思いますが、腸内環境を整えるため、スプーンでそのままなめたりしても構わないですよね?
光岡
構わないと思いますよ。オリゴ糖は甘みがありますが、血糖はほとんど上がりませんから。
――
甘いと悪いイメージがある人もいますが、オリゴ糖の場合は血糖が上がらない、その点で砂糖とはまったく違うわけですね。
光岡
腸から吸収できないですからね。要するに、体内にオリゴ糖を分解できる酵素がないんです。そのため、摂取すると腸内に留まって、それが善玉菌のエサになる。結果として、腸内環境が整っていくわけですね。
――
ヨーグルトが苦手な人は、オリゴ糖を利用するのもいいかもしれないですね。
腸をマッサージしている専門家から聞いた話ですが、肉類ばかり食べている人は、腸の一帯が硬くなっていることが多いらしいんです。
光岡
腸が硬いというのは、便秘で便が硬くなっているのではなくて?
――
大腸の下部(下行結腸やS状結腸のあたり)に便が詰まっているから硬いということもあるでしょうが、腸管自体のぜん動が鈍くなるらしいです。
光岡
それが事実としたら、おそらく消化しにくいものをあまり摂ってないからでしょう。腸の硬さが気になる人は、まず野菜をしっかり摂って、そのうえでサイリウムなどを補助的に摂るといいです。
――
こうした肉の問題についてはイメージできるんですけど、粉物というか、パンやめん類などを食べても硬くなるようなんですね。
光岡
粉物だと、腸からみんな消化吸収されてしまうでしょう? だから、腸内にカス(食物繊維)はほとんど残らない。玄米のような未精製の穀類を摂るようにしたら、腸内に残るカスがかなり多くなります。
――
カスが多いほうが腸のぜん動も助けるし、腸内フローラをいい方向に形成するわけですね。では、逆にパンやめん類などを摂るときは……。
光岡
基本は野菜を一緒に摂ることです。それも、普段より多めに。
――
僕自身、確かにパンを食べたときのほうがお腹に張りがあり、硬い感じがするんですね、体感として。でも消化は速いんですね。
光岡
吸収しちゃうから。カスがないんですよ。
――
肉にも食物繊維は含まれていませんから、吸収が速いわけですよね。逆なんですよね、印象が。「体にいいものは吸収もいい」という印象を持っている人が多いと思いますから、発想を逆にしないといけないんですね。
光岡
カスがあると腸を刺激するから、速く排泄しようとする。その結果、ぜん動が促され、お通じが良くなるんです。肉類は速く吸収されるからカスが少ない。その結果、ぜん動も鈍り便秘になりやすい。
――
悪玉菌はその間に肉類のタンパク質をエサにして、勝手に増えていくんですね。
光岡
カスが少なくなって、しかも悪玉菌を増殖させる。そうなると、腸内のpHがアルカリ性になる。酸性になると腸ぜん動の刺激が高いからどんどん排泄されるのですが、アルカリ性だと刺激が少ないんですね。
だから、腸の健康を保とうと考えたら、腸内環境をアルカリ性にしないことが大事なんです。
赤ちゃんは、すぐに便が出るでしょう? 赤ちゃんの腸内にはビフィズス菌が多いから、健康体であれば酸性の腸内環境になっているわけです。
光岡
その時代まで戻れないにしても、ある程度食事を整えることで……。
光岡
そう、赤ちゃんみたいにはなれないけど、カスを多くすることで排泄がスムーズになる。それが腸内環境を整える基本の一つ。腐敗が起きると、どうしても腸ぜん動が鈍ってしまいますから、年を重ねるほどに食事でのコントロールが重要になってくるのです。
――
いまの栄養学は腸の健康を基準にしてはいませんから、その知識だけで食事を摂るのは一考したほうがいいかもしれないですね。
光岡
肉を食べてはダメだと言っているわけではありません。繰り返しますが、腸内細菌のバランスが重要なのです。肉を食べた後に便が臭かったり、便秘が続くようなら、バランスが崩れている証拠です。
栄養価を考えることも大事ですが、腸の反応を無視していてはせっかくの栄養が健康を妨げる要因になりかねません。
腸内の善玉菌が活動しやすいよう、つねに食生活の改善やストレスケアに努めること。善玉菌の割合が20%くらいに保たれていれば、お通じの調子もよく、腸内の腐敗も起こらなくなります。
――
最後はそこに行き着くんですね。まだまだお伺いしたいことはあるんですが、食べることの基本を再確認できたところで、今回は一区切りさせていただきます。長時間ありがとうございました。

(おわり)

光岡知足インタビュー(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」所収)より転載。

\ この記事をシェアする /

プロフィール

ポートフォリオ

光岡知足(みつおか・ともたり)
1930年、千葉県市川市生まれ。東京大学農学部獣医学科卒業。同大学院博士課程修了。農学博士。’58年、理化学研究所に入所。ビフィズス菌をはじめとする腸内細菌研究の世界的な権威として同分野の樹立に尽力。腸内フローラと宿主とのかかわりを提唱し、腸内環境のバランスがヒトの健康・病態を左右すると指摘した。「善玉菌」「悪玉菌」の名づけ親としても知られている。

ベルリン自由大学客員研究員、理化学研究所主任研究員、東京大学農学部教授、日本獣医畜産大学教授、日本ビフィズス菌センター理事長を経て、現在、東京大学名誉教授、理化学研究所名誉研究員、日本獣医生命科学大学名誉博士。日本農学賞、科学技術長官賞、日本学士院賞、メチニコフ賞などを受賞。趣味はクラシック音楽鑑賞とバイオリン演奏。大学在学中からバイオリン奏者として市川交響楽団にも在籍。

著書は「腸内細菌の話」「健康長寿のための食生活」(以上、岩波書店)、「腸内菌の世界」(叢文社)、「人の健康は腸内細菌で決まる!」(技術評論社)、「腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ」(祥伝社)、「大切なことはすべて腸内細菌から学んできた」(ハンカチーフ・ブックス)など多数。

\ 最新刊のご紹介 /

TISSUE vol.04

TISSUE vol.04
特集:毎日は愉しい

内容紹介

今回のTISSUE(ティシュー)では、「毎日は愉しい」をテーマに、さまざまな分野からつむぎだされた次の7つの物語をお届けします。無限の世界につながる扉へ、ようこそ。

¥1,728(税込)

トップへ戻る