生命科学というと、自分たちの日常とはどこか遠い、特別な世界の話のように感じられるかもしれません。
でも本来、生き物の「いのち」を扱っているのが生命科学です。それが遠い場所にあるのだとしたら、どこかがおかしい。そんな思いで「生命科学」から「生命誌」へと展開し、生命のいとおしさを紡いできた中村桂子さん。
私たちが生きているバックグラウンドには、生物が歩んできた38億年の歴史がある……そんな「生命誌」の語り部である中村さんに、ぜひお話ししてほしいとお願いしたのが、禅僧として多方面で活躍する藤田一照さんでした。
禅と生命誌。こちらも一見すると遠い場所にありそうですが、共通項になるのは「いのち」を見つめるまなざし。たがいの世界観が混ざり合って、この現実の中で「強く、優しく」生きていくための言葉が生まれたなら……。
2017年2月、中村さんのドキュメンタリー映画『水と風と生きものと』の上映会のあと、初対面したお二人のトークが始まりました。

長沼敬憲(ハンカチーフ・ブックス編集長)

6オーガニック・ラーニングのすすめ

2019年9月26日

――
禅でも「ストンと腹に落ちる」ということがテーマだと思うんですが?
藤田
落ちていなかったら出直して来いと言われる感じがありますよね(笑)。
こうしたことは、口頭で教えることも必要ですが、一緒に暮らしていく中で「こんな時はこういう眼差しで見るんだとか、こういうふうに触れるんだ」とか、実際に経験して、からだで学ぶのがいいと思うんです。
僕はこれを「オーガニック・ラーニング」と呼んでいるのですが、子どもって、母国語を覚えたり、歩き始めたりするのに別にテキストや授業があるわけでもコーチがいるわけでもないのに、あらゆることを吸収して知らぬ間にできるようになりますよね? ボキャブラリーを文法に従って組み立てることで無限に文章を作り出したり、日常の動作も同じく「こう動けばこうなって……」ということを無限に生み出していけます。いまはみんな学校の授業のようにやっているでしょう? 先生がいて、テキストがあって時間割があって。それも必要かもしれませんが、こういう新しい世界観が臍落ちするようになるには、やっぱりそうではない方法が必要かもしれません。
中村
「言う」ことも大事ですが、もっと大事なのが「聞く」ことだと思うんですね。だけど、聞いてないなあと思う人がいっぱいいる(笑)。柔らかく捉えることが大事ですが、それはまず「聞く」という容れ物を持っていないとできないと思うんです。だから、私はディベートが嫌いなんです。子どもたちにディベートを教えようとか言いますが、あれは「言うだけ言って負かせばいい」感じでしょ?
そうではなくて、私たちがいま持っている「知」というのは、すべて「対話」から生まれているんですね。お釈迦様もそうだし、ソクラテスも孔子もそうです。何か素晴らしいことを生み出した方たちは、みんな対話をされたんです。子どもたちにもディベートではなくて「対話をしようね」という雰囲気にしたいなと思うんです。
藤田
対話といえば、人と人もありますが自然との対話も大事ですね。
中村
そうです。あらゆるものとの対話です。生命誌研究では対話しています。対話しないと教えてくれませんから。本当に面白いですよ。いじめて「お前なんとかしろよ」なんて言っていてもダメで、やっぱり大好きで対話していると答えを教えてくれるんです。
藤田
いまは二次的、三次的な知識ばかりで、一次的な知識が少ないですよね? 直接生き物に触れることが、汚いとか、虫自体が減っているとか、都会だからとかいろんな理由で減ってしまっていてすごく危うい感じがします。それは自然との対話がないのと同じですよね。こちらの見方次第で見えなかったものが見えてくるようになる、そう問いかけると答えてくれるものが対話でしょう?
中村
本当にそのとおりです。自然との対話は大切なんですが、それが減ってきてますね。
藤田
こうしてご本人とお会いして、中村先生がマインド(頭)ではなく、ハートやソウル(魂)のところでわくわくしながら活動されているのがとても伝わってきました。まさに生命誌的な生き方をされているのが感じられ、今日は対話できて本当によかったです。ありがとうございました。
中村
こちらこそありがとうございました。

(おわり)

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プロフィール

ポートフォリオ

(上)中村桂子 Keiko Nakamura

1936年東京生まれ。59年、東京大学理学部化学科卒。理学博士。三菱化成生命科学研究所、早稲田大学人間科学部教授などを経て、93年、大阪・高槻市に「JT生命誌研究館」を設立。大腸菌の遺伝子制御などの研究を通じ、生物に受け継がれている生命の歴史に着目、「生命誌」を提唱する。2002年、同館の館長に就任、現在に至る。著書は『生命科学から生命誌へ』『自己創出する生命』『科学者が人間であること』『小さき生き物たちの国で』など多数。2015年、ドキュメンタリー映画『水と風と生きものと〜中村桂子・生命誌を紡ぐ』(藤原道夫監督)が公開された。http://www.brh.co.jp
 
(下)藤田一照 Issho Fujita

1954年、愛媛県生まれ。東京大学教育学部教育心理学科を経て、大学院で発達心理学を専攻。28歳で博士課程を中退し禅道場に入山、得度。33歳で渡米。以来17年半にわたりアメリカで坐禅を指導する。スターバックス、フェイスブックなど、アメリカの大手企業でも坐禅を指導し、曹洞宗国際センター所長を務める(2010~18年)。著書に『現代坐禅講義』(角川ソフィア文庫)、『禅僧が教える考えすぎない生き方』(大和書房)、『僕が飼っていた牛はどこへ行った? ~「十牛図」からたどる「居心地よい生き方」をめぐるダイアローグ』(ハンカチーフ・ブックス)など。共著に『感じて、ゆるす仏教』(KADOKAWA)、『禅の教室』(中公新書)、訳書に『禅マインドビギナーズ・マインド2』(鈴木俊隆著、サンガ新書)、『禅への鍵』(ティク・ナット・ハン著、春秋社)など。http://fujitaissho.info

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TISSUE vol.03

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特集:まなざしのいいひと

内容紹介

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