1病気の本質は「定説」の向こう側にある。
2019年11月11日
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- 先生は普段は患者さんの会でお話されることが多いと思いますが、一般的にはまだまだパーキンソン病に詳しい人は少ないですよね? どんな病気なのか、ご説明いただけませんか?
- 佐古田
- 皆さんもご存じのように、光に当たると肌が黒くなりますね。それはメラニンができるからですが、中脳の黒質という部分は、光も当たらないのにどういうわけか黒いんです。この黒いところでドーパミンという神経伝達物質がつくられ、大脳基底核というところに到達します。
- ――
- パーキンソン病は、その黒質が変性することで動作に様々な障害が現れる病気であると考えられていますよね?
- 佐古田
- 私は少し違う考えを持っていますが、教科書で見るとそうなっています。ですから、保険医療で認められている一番良く効く薬というのは、ドーパミンを補充するというものです。これが有効だと考えられています。
- ――
- 症状については、「手足がふるえる(振戦)」「筋肉がこわばる(筋固縮)」「動きが遅い(無動)」「バランスがとりづらい(姿勢反射障害)」という「四大症候」がよく知られていますが……。
- 佐古田
- これも一般的にはそう考えられていますね。ただ、それ以外にも非運動症状と呼ばれる、うつ、不眠、便秘など様々な症状があります。ですから、運動障害は氷山の一角に過ぎないと指摘されている先生もおられます。
- ――
- やはり高齢者がかかりやすい?
- 佐古田
- はい。遺伝性のものもありますが、比較的高齢者が多いですね。
- ――
- 同じ脳の病気として、アルツハイマー病もあります。高齢者に多い点では、脳梗塞も含め大きな社会問題になっていますが、先生は治癒のカギはどれも腸にあると考えられていますね。
- 佐古田
- 腸内の神経細胞は6億個あり、ほぼ脊髄に匹敵すると言われています。セロトニンやドーパミンなど多くの神経伝達物質が腸の中で作られていますし、動物実験ではありますが、脳の記憶に関係した細菌や、うつに関係した細菌がいることも、多くの論文で発表されています。
- ――
- パーキンソン病に関しては?
- 佐古田
- 私が面白いと思っているのは、ブラークという病理の先生が発表した説ですね。パーキンソン病でできる「レビー小体」という脳の病変が、じつは腸から始まり上へあがっていくという論文があるんです。
- ――
- レビー小体は、一般的には脳のなかにできると言われています。それがまず腸内でできて移動するということですか?
- 佐古田
- いや、正確に言えば、初期の頃は腸にだけできていて、それが進行していくと身体の他の部分にでき、脳でも脳幹にでき、大脳皮質にもできてくるというように、ステージによってできる場所が広がっていくということです。レビー小体自体が移動していくという考え方ではありません。
- ――
- なるほど。いずれにせよ、初期段階ではまず腸にレビー小体ができると。
- 佐古田
- こういう話もあります。パーキンソン病でレビー小体がたまるのに対し、アルツハイマー病は脳内にアミロイドβ蛋白という物質がたまりますが、亡くなられた患者さんを解剖すると、パーキンソン病の方のほとんどはアミロイドβ蛋白がたまったアルツハイマーの病理所見を持っているのです。
- ――
- アミロイドβ蛋白がパーキンソン病の方にも?
- 佐古田
- ええ。元気な時に亡くなられた方でも、解剖すると発見されるケースもたくさんありますから、パーキンソン病に限った話ではありません。でも、興味深い事実だと思いますね。そうした場合、インシデンタルな(偶発的に発見される)アルツハイマー病という呼び方をしています。
- ――
- ただ、生前、元気で症状がないことがあるわけですね?
- 佐古田
- そうです。パーキンソン病も同じで、症状がない状態で亡くなられた方であっても、解剖するとレビー小体が見つかることがあります。新しいパーキンソン病診断機器を作って、20人の健康なお年寄りを調べたことがありますが、2~3人の方に明らかなパーキンソン病の症状が見られました。
- ――
- 病態が発生していても特に発症しない人がいる以上、ただ病理的なものにだけ注目しても治癒に結びつかない可能性がある?
- 佐古田
- ええ。それに加え、身体全体を通して考察する視点も必要です。
- ――
- 具体的にどういうことですか?
(つづく)
インタビューは、2015年4月、大阪・豊中市にて収録(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」より転載)。