現代医学は、身体に起こる現象を細分化し、その働きを調べていく「要素還元主義」が進むことで、「全体」が見えにくくなっている感があります。私たちが生きている現実、生命という決して割り切れないものといかに向き合うか? 医療現場でこの難しい問いと向き合い、さまざまな成果を挙げている佐古田三郎さんのインタビューをお届けします。
いまある医療の仕組みを尊重しつつ、固定観念にとらわれず、患者さんがより元気に生きるための方法を思考し、実践している佐古田さん。食べること、寝ること、光を浴びること……。その実践から見えてきたのは、私たちが生きる空間のなかに《答え》があるということでした。
まずは佐古田さんの専門の一つであるパーキンソン病のお話から……。

2慢性疾患の原因は「ちょっと変な感染症」。

2019年11月18日

佐古田
たとえば、解剖で心臓の神経節を調べてみると、パーキンソン病で不整脈の患者さんの多くからレビー小体が見つかるんです。
レビー小体が下から上へあがっていくという先ほどの説をふまえると、心臓で(レビー小体が)止まれば、それが心房細動と呼ばれるのだろうと私は考えています。実際に、交通事故で亡くなられた若い方で心臓神経節にレビー小体を見つけたという論文があります。
――
そのお話、すごく面白いと思いました。先生は、「パーキンソン病を持たない不整脈の患者さんも広義のパーキンソン病ではないか」と著書のなかで書かれています。
佐古田
まあ、かなり大胆な仮説ですけれどもね(笑)、心房細動の患者さんの1〜2割にそうした方がいらっしゃるのではと思っています。
――
循環器の先生には思いもよらない話なのでは?
佐古田
そういう仮説で検証してもらえるといいのですが、一般的に「心房細動はどうして起こるのですか?」と循環器科の先生に伺うと「老化です」と。「では、老化とはなんですか?」と問うと、そこから先は答えがないわけです。
――
先生は本の中で「心臓のパーキンソン病」という比喩的な表現で、心房細動のことを捉えていらっしゃいましたよね。つまり脳の病気だから脳の中で起こるという、病気を部分的に捉える発想を先生はされません。
佐古田
ええ。その通りです。
――
つまり、パーキンソン病を身体全体のなかの病理として見ていくと、脳に現れる人もいれば、心臓のみでとどまっている人もいるということになる。同様の視点で、「間歇性外斜視」についても書かれてらっしゃいますね。
佐古田
年配者に多いですが、物が二重に見える人が眼科に行くと、「間歇性外斜視」と診断されます。普通は眼球運動に障害があって物が二重に見えますが、間歇性なので時々二重に見えている状態です。こういう症状も老化が原因と考えられていますが、もしやと思って調べてみると、網膜にレビー小体が見つかるわけです。ですから、「目のパーキンソン病」と呼んでいいのではないかと私は考えています。
――
間歇性外斜視の場合は、パーキンソン的な運動障害が目だけで見られるということですね。大事なのは、脳だけ、心臓だけ、目だけではなく、もっとダイナミックに病態を受け止める視点なのかもしれません。レビー小体については、腸内でも発生するとおっしゃっていましたが……。
佐古田
いろんな方が研究をされていますが、なかには「できたり消えたり」を繰り返しているんじゃないかと書かれている論文もあります。腸との関係については、まだまだこれからというところですね。
――
先生は、パーキンソン病の治療の一環として、食事の改善にも取り組まれていますよね。この分野では珍しいことだと思うのですが、なぜ食事が大切なのでしょう? 腸と健康の関わりについて話していただけませんか?
佐古田
私は、老化による慢性疾患の多くは「ちょっと変な感染症」が原因ではないかと考えています。腸には百兆にも及ぶ菌が棲息しているといいますから、その影響は計り知れません。こうした常在菌をうまくコントロールすることが治療の大きなポイントと言えます。
――
菌という大きな括りでは、腸内細菌だけが特別とは言えない面もありますね?
佐古田
ええ。私もすべての菌の働きを理解しているわけではありませんが、口腔内にも500種類の菌がいますし、胃に棲息するピロリ菌も無視できませんが、肝臓、胃、冠状動脈、目、鼻、口、膣、皮膚など、慢性的に人に住み着く菌の存在も知られるようになってきました。
――
そうした菌の一つとして、先生はピロリ菌の研究に注目されていますね。
佐古田
ピロリ菌によって起こる病気としては胃炎や胃ガンが知られますが、最近では、「血小板減少性紫斑病」のような胃外病変も注目されるようになりました。胃の中だけでなく、胃の外でも病変を起こすわけです。この病気は、ピロリ菌除菌をすると良くなるということで、保険でも認められています。
――
ピロリ菌イコール胃の中ではないわけですね。除菌に問題はないのですか?
佐古田
胃カメラ検査をせず、胃炎や胃潰瘍の有無がまったくわからない段階で抗生物質をたくさん出している医療機関が多いようですが、どんなタイプの感染者を除菌すべきなのか、あまりわかっているわけではありません。
――
除菌すべきかの判断は難しそうですね。
佐古田
私の病院では、除菌するのは明らかに胃炎がある人だけですね。まあ、それが正しいかもまだわかっているわけでありませんが。
――
その一方で、パーキンソン病の患者さんを除菌すると改善するケースもあると、先生はおっしゃっています。
佐古田
これは難しい問題で、「過去に除菌した人がパーキンソン病にかかりやすい」という論文もあれば、「パーキンソン病が進行中の人には除菌が有効である」という論文もあります。現状ではどう理解すべきか難しいところです。

(つづく)

インタビューは、2015年4月、大阪・豊中市にて収録(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」より転載)。

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プロフィール

ポートフォリオ

佐古田三郎 Saburo Sakoda

医療法人篤友会「オーガニッククリニック」院長。大阪大学名誉教授。1975年、大阪大学医学部医学科卒業。大阪大学講師・助教授を経て、2000年、大阪大学医学部神経内科教授に就任。2010年より国立病院機構・刀根山病院院長に就任。パーキンソン病を中心とした神経変性疾患、多発性硬化症などの免疫疾患を専門としつつ、既成の診療科の枠にとらわれない身体全体にアプローチした病態の解明、薬に頼らない治療法、日常の食事や睡眠などを重視した養生法のあり方などについて幅広く研究、啓蒙を続けている。 2019年3月、医療法人篤友会「オーガニッククリニック」を開設。著者に『医者が教える長生きのコツ』『佐古田式養生で120歳まで生きる する・しない健康法』、監修に『認知症予防! 脳がよみがえる「水煮缶」レシピ』などがある。
http://www.organic-clinic.jp

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