現代医学は、身体に起こる現象を細分化し、その働きを調べていく「要素還元主義」が進むことで、「全体」が見えにくくなっている感があります。私たちが生きている現実、生命という決して割り切れないものといかに向き合うか? 医療現場でこの難しい問いと向き合い、さまざまな成果を挙げている佐古田三郎さんのインタビューをお届けします。
いまある医療の仕組みを尊重しつつ、固定観念にとらわれず、患者さんがより元気に生きるための方法を思考し、実践している佐古田さん。食べること、寝ること、光を浴びること……。その実践から見えてきたのは、私たちが生きる空間のなかに《答え》があるということでした。
まずは佐古田さんの専門の一つであるパーキンソン病のお話から……。

4「朝のアンパン」がなぜ問題になるのか?

2019年12月2日

――
視点が多岐にわたっていらっしゃるので、一度ここで整理させてください。先生は、病気治療の柱として、通常の投薬治療にとらわれず、「食養生」「睡眠養生」「日内リズム養生」という3つの養生法を掲げていますね?
佐古田
はい。もっと全体的に、病態ではなく患者さんを診るべきなんです。
――
「食べて、寝て、日中は光を浴びる」という生物としての基礎の部分に不具合が生じると様々な病気にかかりやすくなる……そうとらえると明快ですし、面白いですね。
佐古田
ええ。パーキンソン病の患者さんも、こうした養生法を組み合わせるなかで治癒率を高めていくことができるんです。
――
では、改めて「食」について伺いたいと思いますが、ここに関わってくるのが、菌の存在ということですね。先ほどピロリ菌の話が出ましたが、先生の本では、ピロリ菌のほかに、リーキーガットとSIBO(サイボ)も取り上げられています。
佐古田
リーキーガットについては、いろいろな論文が出ています。文献では「小腸の透過性の増大」という言葉がよく使われていますね。
――
リーキー(leaky)が漏れる、ガット(Gut)が腸なので、腸粘膜に穴が開き、分子の大きな食べ物のカス、化学薬剤などが血液中に入り込んで、代謝不良、アレルギーなどを引き起こすことになると言われています。
佐古田
この点で有名なのが、アフリカの子どもと比べてヨーロッパの子どもになぜアレルギー疾患が多いのかという議論です。アフリカの子どもはイモ類をよく食べるため、食物繊維の摂取量がとても多い。そのおかげで、食物抗原(アレルギーの原因となる食材)が「タイトジャンクション」から入ってこないため、食物アレルギーが防げているのではないかということです。
――
タイトジャンクションというのは、腸の粘膜を構成している細胞と細胞の結合部分のことですね。ここが崩壊し、弱くなってしまうことを「腸に穴が開く」と呼んでいるわけですよね。
佐古田
はい。もちろん、そうやって穴が空いてしまえば、未消化の食べ物だけでなく、細菌の侵入も増えてくるだろうと言われています。
――
食べ物の栄養を取り込む小腸から、病原菌なども侵入していってしまうということですね。食物繊維の摂取が必要になるのは、一般に言われているような便秘の問題にとどまらない感じがします。
佐古田
(タイトジャンクションを形成している)腸管上皮の細胞のエネルギー源として、最近では「短鎖脂肪酸」が注目されていますが、これは腸内細菌が食物繊維を分解することで分泌されるんですね。ですから、食物繊維をたくさん摂っているとタイトジャンクションも丈夫になります。
――
菌のエサになるだけでなく、小腸をつくっている細胞のエネルギー源にもなるわけですね。なんだかすごいつながりです。
佐古田
(食中毒を引き起こす)O-157もこのタイトジャンクションがしっかりしていれば怖くありません。逆に、タイトジャンクションがゆるむとO-157も入ってきてしまいます。
――
リーキーガットの一番の原因として、精製炭水化物(精製糖質)の摂りすぎが問題視されています。たとえば、精製した小麦とか砂糖を使った食品ですね。「グルテンフリー」という言葉も最近は聞かれますが、やはりこうした食事が、リーキーガットに関係しているとお考えですか?
佐古田
はい。公園にぶらりと出かけて、お子さんが遊んでいるのを見ていたりすると、私などの時代と違って、スナック菓子を一袋丸ごとその場で食べてしまうというひどい光景を見ます。
――
確かに多いですね。
佐古田
もともと精製炭水化物の摂取の多い、ハンバーガーを食べてコーラを飲むというような食生活をしていると、リーキーガットになりやすいんです。
――
現代人の食事の問題点が、そこに集約される面もあるわけですね。
佐古田
子供たちだけでなく、私くらいの年代の方でも朝は甘いドーナツを食べて、清涼飲料水を飲んでという話をよく聞きます。そういう食事を平気で続けている人を見ると、正直、「どうぞアルツハイマー病になってください」と私などは思ってしまいますね。
――
パーキンソン病の患者さんも、朝にアンパンとか甘いものを食べるケースがとても多いとおっしゃっていますね。お年寄りだから和食が多いというわけではなく、食べやすいパン類につい頼ってしまう。
佐古田
パーキンソン病の方は手が不自由な方も多いので、トーストを焼くということすら面倒くさい。ですから、「牛乳に菓子パン」という人がどうしても増えてしまうんです。そこから改めていかないと、症状はなかなか改善されません。
――
もともとパーキンソン病の方に多い症状として便秘が挙げられていますが、それも腸と食の関係によるところが大きいとお考えですか?
佐古田
それもあると思いますが、腸管神経叢のなかにレビー小体ができることでぜん動運動に障害が起きるため、どうしても便秘は増えます。

(つづく)

インタビューは、2015年4月、大阪・豊中市にて収録(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」より転載)。

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プロフィール

ポートフォリオ

佐古田三郎 Saburo Sakoda

医療法人篤友会「オーガニッククリニック」院長。大阪大学名誉教授。1975年、大阪大学医学部医学科卒業。大阪大学講師・助教授を経て、2000年、大阪大学医学部神経内科教授に就任。2010年より国立病院機構・刀根山病院院長に就任。パーキンソン病を中心とした神経変性疾患、多発性硬化症などの免疫疾患を専門としつつ、既成の診療科の枠にとらわれない身体全体にアプローチした病態の解明、薬に頼らない治療法、日常の食事や睡眠などを重視した養生法のあり方などについて幅広く研究、啓蒙を続けている。 2019年3月、医療法人篤友会「オーガニッククリニック」を開設。著者に『医者が教える長生きのコツ』『佐古田式養生で120歳まで生きる する・しない健康法』、監修に『認知症予防! 脳がよみがえる「水煮缶」レシピ』などがある。
http://www.organic-clinic.jp

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