現代医学は、身体に起こる現象を細分化し、その働きを調べていく「要素還元主義」が進むことで、「全体」が見えにくくなっている感があります。私たちが生きている現実、生命という決して割り切れないものといかに向き合うか? 医療現場でこの難しい問いと向き合い、さまざまな成果を挙げている佐古田三郎さんのインタビューをお届けします。
いまある医療の仕組みを尊重しつつ、固定観念にとらわれず、患者さんがより元気に生きるための方法を思考し、実践している佐古田さん。食べること、寝ること、光を浴びること……。その実践から見えてきたのは、私たちが生きる空間のなかに《答え》があるということでした。
まずは佐古田さんの専門の一つであるパーキンソン病のお話から……。

5おすすめは「糖質制限」より「日本の伝統食」。

2019年12月9日

――
なるほど。リーキーガットの問題としてとらえると、お年寄りやパーキンソン病の方に限らない話だと思います。もう一つのSIBOについてはどうでしょうか?
佐古田
SIBOは「小腸内細菌異常増殖症」と呼ばれていますが、もともと小腸は免疫応答する場所ですから、菌はあまりいません。
 腸内細菌の大部分は大腸で棲息しているわけですが、消化吸収を担う小腸で異常増殖が起こると食事から摂取した栄養素が菌たちに食べられてしまったり、パーキンソン病の場合ですと、中性アミノ酸であるドーパなどを分解したり、様々な弊害が出てきます。
――
先生の話を伺うまで、免疫細胞(白血球)が集結している小腸で菌が異常増殖するなど、考えたこともありませんでした。
佐古田
小腸は空腸と回腸に分かれていますが、(大腸に近い)回腸の末端には弁があって、大腸の菌があまり上がってこられないようになっています。その回腸の末端部に「パイエル板」と呼ばれている集合リンパ小節があり、免疫を担うリンパ球が集まっています。なぜそこで集合しているのかという点も興味深いと思いますね。
――
先生はどうとらえておられるんですか?
佐古田
パイエル板ではIgAと呼ばれる分泌性の抗体がつくられ、不要な菌を殺したり、共生菌などの侵入を防いだりしています。IgA抗体は、代表的な抗体であるIgGに比べるとあまり重視されていませんが、一日に生産される抗体のなかでもっとも量が多いことで知られます。
――
IgA抗体の多くは、小腸で生み出されるんですよね。
佐古田
IgAは粘膜で産生されますが、腸での産生が最も多いです。小腸は「欲しいものは入ってもらう」が「欲しくないものは入らせない」という微妙なバランスが求められる場所なのでしょう。
――
その小腸で異常増殖した菌が、リーキーガットのような穴から体じゅうに漏れていく?
佐古田
はい。高齢者の病気の大半が先ほど話した「奇妙な細菌感染」だと仮定するならば、「どこかから菌が入ってくるのか?」ということになります。そのひとつの大きな要因がリーキーガットと呼ばれていて、普通は通れない大きな分子が(体内に)入ってしまうということになります。
――
ここに精製糖質の摂りすぎがからんでくるとすると、高齢者のみならず、あらゆる世代に該当する話ですね。最近では「糖質制限」が注目されています。先生は、糖質そのものを制限するという考え方についてはどう思われますか?
佐古田
「糖質」「炭水化物」という言葉で、すべての食材を一括りにするのは難しいと思いますね。「白米」と「玄米」を同じレベルで議論することになりますから、いろいろと矛盾は出てきます。あまり「糖質」という言葉にとらわれず、「食材を選ぶ」という観点で考えたほうがいいと思います。
――
糖は菌のエサになることで発酵食品にも変化しますから、すべてマイナスにとらえることには疑問があります。
佐古田
そうですね。発酵食品というといまではヨーグルトばかりが注目されますが、どれくらい食べればよいかわかっているわけではありません。動物性脂肪の摂りすぎのリスクもありますから、納豆、味噌汁、甘酒、ぬか床、梅干しなどで摂っていくほうがいいかなと思います。
――
なぜ注目するようになったのでしょうか?
佐古田
私としては、ピロリ菌などの菌がどのようにして体内に入るのかということを突き止めたいわけですが、その一方で、予防策として「共生菌を増やす」ことにも注目しています。つまり、外敵がいるところに中間層をたくさん配置すれば、その一種類の外敵は異常増殖することはできなくなるという考え方です。
――
除菌というと抗生物質がまず考えられますが、こちらは共生菌をむしろ殺してしまうリスクがあると考えられていますね。
佐古田
「意見の多様性」「民族の多様性」「腸内細菌の多様性」など、多様性という言葉をキーにすると、発酵食品の大切さが見えてくると思います。
 たとえば、皆さんが食べているパンはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)という酵母で作られていますが、天然酵母ではないですから、その酵母のみを毎日大量に食べることになりますね。そうすると、腸管免疫が異物と認識することで、パン酵母抗体がつくられます。
――
単一の酵母によって免疫の誤作動が起こりやすくなるわけですね。
佐古田
事実、それが潰瘍性大腸炎の診断基準にもなっていますから、私はパンであれば天然酵母のパンを食べるようにしています。要するに、腸内細菌に多様性があることが大切なんです。毎日同じパン、同じ菌だけが腸内に大量に入ってくるというのは、じつは危険ではないかと思っています。

(つづく)

インタビューは、2015年4月、大阪・豊中市にて収録(科学系インタビューサイト「Bio&Anthropos」より転載)。

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プロフィール

ポートフォリオ

佐古田三郎 Saburo Sakoda

医療法人篤友会「オーガニッククリニック」院長。大阪大学名誉教授。1975年、大阪大学医学部医学科卒業。大阪大学講師・助教授を経て、2000年、大阪大学医学部神経内科教授に就任。2010年より国立病院機構・刀根山病院院長に就任。パーキンソン病を中心とした神経変性疾患、多発性硬化症などの免疫疾患を専門としつつ、既成の診療科の枠にとらわれない身体全体にアプローチした病態の解明、薬に頼らない治療法、日常の食事や睡眠などを重視した養生法のあり方などについて幅広く研究、啓蒙を続けている。 2019年3月、医療法人篤友会「オーガニッククリニック」を開設。著者に『医者が教える長生きのコツ』『佐古田式養生で120歳まで生きる する・しない健康法』、監修に『認知症予防! 脳がよみがえる「水煮缶」レシピ』などがある。
http://www.organic-clinic.jp

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